翻訳記事:テーマはゲーム性にあらず(その1)

これは翻訳記事です

GDC#11:テーマはゲーム性にあらず(その1)
2010/6/14 Soren Johnson

Game Developer誌2010年2月号に掲載された物の再掲

 

ゲームの意味を決めるのは誰だろうか?

一見した所、人気ボードゲーム「乗車券」は鉄道王ゲームの系譜である。「蒸気の時代」や「ユーロレイルズ」や「1830」に近い感じだ。プレイヤーは都市と都市を繋ぐ路線を確立して行く。ニューヨークからサンフランシスコへ、マイアミからシカゴへ、という具合だ。

点数を得るにはいくつもの都市を結ぶ路線を作りつつ、他のプレイヤーの路線建設を妨害しなくてはならない。また連続した最長路線の確立や目標地までの路線確立など副次目標もある。

従って、「乗車券」は鉄道会社経営ゲームとして扱われる事が多い。優良な路線を選び、ライバルの路線を分断するゲームという風に。しかしながら、ルールブックの導入部にはそれと全く違うストーリーが書かれている…

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風の吹きすさぶ秋の夜、五人の旧友が秘密のクラブの一室に集合した。それぞれ世界の果てから長い旅程をやって来たのだ。この特別な日の為に・・・。1900年10月2日、フィリアス・フォッグの偉業「八十日間世界一周」の28年後である。

この28年間、彼らは毎年この記念日を祝い、フォッグへの賞賛を表した。そして年々難しくなる新たな挑戦が与えられた。世紀の変わり目の今年、またも不可能と思える旅程が提案され賭けが始まった。掛け金は100万ドルで勝者の総取り。勝負の方法は、七日間で最も多く北アメリカの都市を回った者が勝ちというものだ。
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この公式ストーリーを見てなんだこりゃと思う人も多かろう。ゲームに慣れている人もそうだ。だってストーリーとゲーム内容が合ってないじゃないか? 例えば、ただの乗客がどうして路線を独占できるのだ? 列車が扉を閉めて他の乗客をみんな閉め出してくれるのだろうか? むしろ鉄道王が路線を巡って争っていると考えた方がシステムに合致するではないか。

しかも路線の確立は好きな順番で行える。プレイヤーが旅行者で、路線の上に物理的に存在するとしたらこれは変だ。路線の確立は搭乗でなく買収と考えた方がすっきりする。

 

システムこそゲーム性を決める

この不一致は興味深い問題へと繋がって行く。プレイヤーのイメージと公式ストーリーが一致しない場合、開発者はそれを押し付ける権利があるのだろうか? 無いとすれば、そもそも「公式」ストーリーは何か意味を持つのか? こうも簡単に無意味になってしまうのに? ゲームとは、プレイヤーが何をするか、そして何を感じるかで決まる物ではないのか?

次の点を理解しなくてはならない。テーマはゲーム性ではない。ゲーム性とはシステムから生まれるものだ。即ち、一連の意思決定とその結果から生まれるのだ。ゲームはプレイヤーに何をする事を求めるか? 何をすると罰を受けるか? 何をすると報酬が得られるか? どんな戦略やプレイスタイルが成立するか? これらの問題に答える事でゲーム性の本質が見えて来る。

更に考察を進めよう。プレイヤーはゲームを買う時テーマで選ぶ(宇宙海兵になりたい!)が、ゲームの楽しさはシステムから生まれるのだ(宇宙人を射殺するなど)。もし両者に極端な不一致があれば、プレイヤーは騙されたと感じるかも知れない。羊頭狗肉だ! と。

進化をモチーフにしたゲーム”Spore”の例を見てみよう。Science誌の2008年10月号で、ジョン・ボハノンがこんな考察を書いている。ゲームのテーマから期待される要素がどう扱われているかという話題だ。

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科学者達と一緒にしばらく”Spore”をプレイしてみた。そして科学考証がきちんと行われているかを評価した。生物学、とりわけ進化論に関して言えば、”Spore”は支離滅裂である。科学者達によれば、”Spore”の不正確ぶりはゲームならではの単純化といったレベルではなく、生物学の殆どの要素を無駄にねじ曲げている。
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不一致の原因はこうだ。”Spore”は進化に関するゲームとして売られているが実際には進化とは関係無い。”Spore”は創造のゲームなのだ。”Spore”の楽しみとは、他のプレイヤー達が想像力の限りを尽くした作品を眺める事だ。開発者さえ予想し得なかった方法でエディタを活用(または誤用)し、楽器や想像上の生物、果ては演劇のワンシーンまで作れるのだ。

“Spore”は進化と無関係なゲームだが、進化を扱ったゲームはちゃんと市場に存在する。超人気ゲーム”World of Warcraft”がそれだ。テーマこそ剣と魔法の世界だが、キャラクター成長システムは自然淘汰の法則によって最適な形へと導いて行く。

数年間の経験を経て、WoWの古豪達は数多の育成レシピ(ビルド)を職業ごとに確立し、求められる役割それぞれに適切なビルドが存在している。例えばパラディン職には3つの主要ビルドがある。回復を担う聖魔法ビルド、盾の役目を担う防護ビルド、火力を担う天罰ビルドである。これらの主要ビルドの下にPvP用、PvE用、レベル上げ用といったサブビルドがそれぞれ存在する。こうしたビルドはどれもプレイヤーの試行錯誤から有機的に生まれたのだ。つまりゲーム内において何が報われ、何が罰せられるかに応じて生じたものだ。

 

テーマを超えて

ゲームシステムはプレイ体験にどう影響しているか? という眼鏡を通してゲームを見てみよう。スーパーマリオブラザーズはタイミングのゲームであり、配管工のゲームではない。”Battlefield”はチームワークのゲームであり、第二次世界大戦や現代戦のゲームではない。”Peggle”はカオス理論のゲームであり、ユニコーンと虹のゲームではない。

実際、テーマが同じでもゲーム性が異なる事はあり得る。例えば人類と異星人の戦争はビデオゲーム界によくあるストーリーだ。しかし異星人をモチーフにしている点は同じでも、ルールの違いによってゲーム性は全く違って来る。「ギャラガ」はパターン認識のゲームである。”X-Com”は限られた情報での意思決定ゲームである。”Gears of War”は遮蔽物を防御兵器として利用するゲームである。”StarCraft”は非対称戦争のゲームである。

逆に、テーマは違ってもシステムが同じならゲーム性は同じである。”Civilization”と”Alpha Centauri”は全く違う惑星を舞台にしているが、システムの部分は殆ど同じである。”Alpha Centauri”のマインドウォーム、特務班、秘密プロジェクトは本質的に”Civilization”の蛮族、スパイ、遺産と同じである。プレイヤーは外面上の違いに惑わされる事無く、”Civilization”と同様の意思決定を下して行ける。

ジャンル選択もゲーム性に影響を与える。テーマごとにそれぞれ固有の文法があり、プレイヤーが期待する物が違って来る(俺は魔法使いだ! 強力な魔法を唱えられる!)。ジャンルの因習はプレイヤーが店でゲームを手に取った時、何をイメージするかを決めてしまう。もう一度言うが、みんなテーマでゲームを買うのだ。システムがジャンルの因習から大きく外れていれば、プレイヤーの期待を裏切る結果になってしまう。

最近の2つのゲームを例として挙げよう。”Halo Wars”と”Brutal Legends”は、戦略ゲームになった事でプレイヤーを戸惑わせた。前者の場合、”Halo”と言えば戦闘アクションゲームの筈だった。後者の場合、ヘビメタ音楽は戦略ゲームに合わなかった。戦略ゲームとは熟考の末に決断を下すものであり、タイトルを見て本能のままに暴れるゲームを期待した人は裏切られたのだ。ゲームのルール自体は面白かったかも知れないが、掲げた看板のせいで売る対象を間違ってしまった。

 

テーマとシステムの合致

面白い比較をしよう。ボードゲームの”Risk”と「ディプロマシー」はどちらも世界征服をテーマにしている。一見した所システムの面でも似た様な感じだ。ゲーム盤は地域に分割され、陸軍や海軍のコマを動かして行く。戦闘によって地域の支配権はプレイヤーからプレイヤーに移る。そして領土を増やせば大きな軍隊を維持できる。

しかし、ルール上の小さな違いが両者を全く異なる物にしている。”Risk”では順番にターンを消化して行くのに対し、「ディプロマシー」の方は同時に解決する。この違いにより、”Risk”はリスクのゲーム、「ディプロマシー」は外交のゲームになったのだ。前者の場合、自分のターンにどれだけの領土が得られるかを見積もり、ダイスの目に嫌われない事を祈って突っ込む。後者の場合、そもそもダイスが無い。成功を収めるには必ず他のプレイヤーの援助が必要である。そして援助は約束はできても保証はできない。交渉フェイズが終わり、それぞれ伏せて指令書を書き、そして一斉に公開する。この時になって初めて誰が本当の友人で誰が裏切り者か分かるのだ。

「ディプロマシー」はテーマとシステムの完璧な合致を果たしている。実際、これはケネディ元大統領のお気に入りだった。ゲームの内容は看板と完全に一致している。外交交渉の手練手管のゲームである。逆にもしテーマとシステムが不一致を起こしていれば、プレイヤーの反応は否定的なものになる。その2ではうまく両者を合致させたゲームとそうでないゲームを考察しよう。そしてその報酬と代価も。

原文:http://www.designer-notes.com/?p=237