翻訳記事:2D対3D

これは翻訳記事です

GDC#2:2D対3D

2008/11/18 Soren Johnson
Game Developer誌2008年7月/8月号に掲載された物の再掲:

 

業界黎明期のゲーム、”Pong”、”Asteroids”、「スペースインベーダー」などは当然ながら2Dゲームであった。初期のゲームで3Dを備えていた物もわずかにあった。線画ベースの戦車シミュレーター、”Battlezone”などだ。しかし3Dはあくまで変わり種に過ぎず、ゲームの本流にはならなかった。全てが変わったのは1992年の事である。id Softwareの”Wolfenstein 3D”の登場により、3Dグラフィックはゲーム開発の最先端として広まった。それ以来、あらゆる物が2Dから3Dへの移行に巻き込まれた。マリオもゼルダも、パックマンすらも3Dにやって来た。

現在ではほぼ移行は完了したと言っていい。そろそろ問うてみようではないか。このプロセスで何を学んだか。何が3Dの長所なのか? 何を目的としているのか? 2Dの方が優れている場合は何だろうか? 今なら開発者も、競争圧力に屈して3Dへ流れるのでなく、ゲームごとに最適なグラフィック環境を選ぶ事ができそうだ。

 

カメラの問題

3Dゲームとカメラには長い格闘の歴史がある。一人称視点のゲームに関しては問題は無いが、他のジャンルも3D化しているのである。プレイヤーにゲーム自体のやり方も教えつつ、カメラの操作も同時に教えるというのは難事である。ここで2Dの強みが出て来る。カメラがそもそも存在しなければ、カメラの使い方を教える苦労は無い。実際、3Dゲームもカメラワークの裁量をプレイヤーに与えなくなって来ているのが最近の潮流だ。

「スーパーマリオ64」は3Dジャンプアクションの最初の成功例である。しかしやはり、プレイヤーはマリオを適切に映す為にカメラコントロールに労力を割かねばならなかった。アクションゲームはより親切なカメラシステムを研究し続けており、自動的に最適なアングルへ調整する様になって来ている。
しかし、こういう手法はどうしてもある点で無理が出る。キャラクターが部屋の角に張り付いたり、水平の出っ張りの下に隠れたりすると処理に困る。この根深い問題への解答として、「プリンス・オブ・ペルシャ 時間の砂」では2つの静止カメラがメインカメラとは別に用意された。そしていつでも視点を切り替えられる。”God of War”ではさらに一歩進んで、各シーンごとに固定カメラが1つ置かれている形になった。映画を作る様にして面を作る形である。「スーパーマリオギャラクシー」ではカメラ操作が一切無くなり、周囲が見える上からの視点に自動で調整される様になった。”World of Warcraft”などのアバター型ゲームは、移動中に視点を調整できないようにしている。これによりキャラクターがカメラに向かって走って来る事態は避けられた。

戦略ゲームにおいてもカメラは進歩している。他のジャンルと同様、カメラ調整の自由度を減らす方向だ。少なくとも初心者には弄らせない。3Dを採用したRTSの一つ、”Star Wars: Force Commander”はカメラ操作が自由すぎて不評だった。軍を見る為の視点調整がいちいち面倒だったのだ。”Warcraft 3″は3Dを正しく採用した最初のRTSと言えよう。成功の肝は視点調整の自由を大幅に減らした事だ。ズームはほぼ不可能で、代わりにカメラ位置が下がって行く形になる。カメラの回転は余り使わないキー操作でのみ可能だ。リードデザイナー、ロブ・パルドは開発の経緯をこう語る。
「3D化するにあたり、カメラ操作の要素はかなり少なくした。視点が低い位置にあると、視界がTPSに近くなる。これでマップのあちこちを見ようとするとどこがどこだか分からなくなるし、視点が一方向だけを向いているせいでユニットを選択するのも難しくなる。戦場全体を見渡せないのだ。戦略ゲームとして面白くするため、結局昔ながらの等軸視点にカメラを持って来た。ようやくそれで作業が始まった」

 

2Dも色々

2Dゲームも様々な種類がある。よくあるパターンは2つ。ボードゲームの様な昔ながらの「見下ろし」2Dと、「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」の様な「横視点」2Dである。他に等軸視点というのもあり、視点を固定した3Dを2Dで模すものだ。3Dへの移行が本格化する前、多くのゲームが見下ろし2Dから等軸2Dに流れて行った。例えば初代”Civilization”は昔ながらの見下ろし2Dだったが、Civ2は45度視点の等軸2Dになった。この手法は確かにそれなりにリアルだが、ゲーム性がいささか犠牲になった。つまりマスとマスの距離がつかみにくい。東西方向のピクセル数が南北方向の2倍になっているからだ。この問題を解決するため、Civ4は3DグラフィックながらCiv1と同じ真っすぐな見下ろし視点を採用した。タイルは斜めになっていない。こうすればマスが分かり易くなり、戦略上の決定も下しやすくなる。

「ファミコンウォーズ」の系譜、”Advance Wars: Days of Ruin”を見てみよう。視点は伝統的な真っすぐの見下ろしだ。プレイヤーは四角のマスに集中できる。ユニット画象はいつものデフォルメ体型で、グラフィックの都合に合わせてある。このシリーズから影響を受けたのが、DSの”Age of Empires: The Age of Kings”である。こちらは同じ様なゲームシステムながら、斜めの等軸視点を採用している。しかしこれが上手く行っているかというと怪しい。マスの区切りが分かりにくいし、ユニットの画像がマスをはみ出しているせいでユニット同士が重なり合ってしまい、選択するのが一々面倒なのだ。マス目を使うゲームは真っすぐな見下ろし視点の方が良さそうである。

 

グラフィックはゲーム性にあらず

3Dグラフィックと3Dゲームは別物だ。例えばSFテーマのRTS、”Homeworld”と”Sins of a Solar Empire”は似た様な3Dエンジンを使って広大な宇宙空間の戦闘を表現している。しかしゲーム性は異なる。”Homeworld”は本当の3Dゲームであり、X軸Y軸Z軸を自由に移動できる。一方”Sins”は2D平面上のゲームであり、高さの概念は無い。その気になれば2Dエンジンでも実装できる。3Dを用いたのはあくまでズームが自由になるとか宇宙が広大に見えるといった副次的な理由からである。ゲーム性が2Dなので”Sins”はあまり操作が複雑にならずに済んだ。一方”Homeworld”はユニットに移動命令を出すのに三次元で位置を指定せねばならず、2〜3クリックが必要になる。

3Dグラフィックと2Dゲームシステムのハイブリッドはよく見かける。「大乱闘スマッシュブラザーズX」は横視点の二次元空間を3Dグラフィックで描画し、アニメーションや背景をリアルに見せていた。クリフ・ブレジンスキーは”Gears of War”のゲームシステムをこう語る。これは2Dアクション”Bionic Commando”を水平にしたものだ。一方はワイヤーを使って足場を渡る。もう一方は遮蔽物から遮蔽物へ渡るのだと。

本質的に、殆どのゲームはグラフィックでなくシステムによって3種類に分けられる:

・マス目型ゲーム(テトリス、パズルクエスト、Civilization、Oasis、NetHack)
・平面ゲーム(Starcraft、Madden、Geometry Wars、スマブラ)
・現実世界ゲーム(Portal、スーパーマリオギャラクシー、Burnout、Boom Blox)

簡単な法則を紹介しよう。現実世界ゲームはほぼ3Dグラフィックが必須である。もちろん「現実」と言っても文字通りの意味ではない。”Portal”のワープ銃は現実に存在しないが、それが現実同様の重力と物理法則を持った世界に存在するから面白いのだ。「現実世界ならこうなるだろう」というプレイヤーの期待に応えるには、現実同様の見た目と振る舞いをする三次元環境を作るべし。これぞゲーム版WYSIWYGである。

これとは対照的に、マス目型ゲームは見下ろし2Dが一番適している。ゲーム性と見た目の乖離が少なくなるからだ。平面ゲームの場合、選択は見た目と技術の問題になって来る。プラットフォームは3Dグラフィックをスムーズに動かせるか? 3Dにするメリットは? モーションを共有したり、特殊効果を付けたり、色々融通が利く様になったりするだろうか? これらを考えて3Dの是非を判断する。

こうしてみると、2Dグラフィックは時代遅れと見なされ過小評価されている様だ。3Dグラフィックの様に巨大なエンジンや大量のアセットを管理しなくて済むのは大きなメリットである。更に、上出来の2Dグラフィックは時代遅れにならない。”Habbo Hotel”のリードデザイナー、スルカ・ハロはよくこう語る。レトロな2Dグラフィックは8年経っても発表当初と同じ位見栄えがする。もし3Dを使っていたら1〜2回はグラフィックエンジンの世代交代が必要だったろう。一度2Dグラフィックが軌道に乗ってしまえば、後は好きに画像を追加できる。2Dグラフィックがゲームシステム自体と上手くリンクしていれば更に良い。

原文:http://www.designer-notes.com/?p=113