翻訳記事:基本プレイ無料に関して

これは翻訳記事です

GDC#4:基本プレイ無料に関して

2009/3/1 Soren Johnson
Game Developer誌2008年11月号に掲載された物の再掲:

 

中国で恐ろしく熱いMMORPGビジネスモデルが登場した。その名は”ZT Online”。今や大人気だ。課金ユーザーは100万人を超え、四半期あたりの平均顧客単価は$40。開発元のGiant Interactiveは中国で最も儲かっているオンライン娯楽企業の1つである。アジアのゲームは大抵基本プレイ無料(F2P)だが、”ZT”もまた然り。加えて”ZT”は対戦プレイに重きを置いている。他のプレイヤーを倒してアイテムを奪えるのは勿論、弱いプレイヤーを身代金目的で誘拐する事すら可能だ。誘拐された方はその間ゲームができない。

“ZT”では装備品の入手方法も非常に限られている。まず、モンスターを倒してもドロップは一切無し。クエストをクリアしてもアイテム報酬は無し。その上全てのアイテムは完全にアカウントに固定されており、他のプレイヤーと取引して良い物を手に入れる事も不可能。ではどうするかと言うと、リアルマネーで運営から「宝箱」を買うのである。ぶっちゃけると装備品入りガチャポンである。宝箱に何か役に立つ物が入っている確率は低く、最高の装備を揃えるには何千も宝箱を開けねばならない。そしてその日一番多くの宝箱を開けたプレイヤーは特別ボーナスが貰える。つまりその日一番多く金をつぎ込んだプレイヤーが良いアイテムを手にするのだ。

欧米の人間には、”ZT Online”の金銭至上主義は受け入れ難いかも知れない。しかしこれが現在のゲーム開発の潮流における最先端なのだ。プレイヤーの欲望を刺激し、ゲームで有利になる為に金を使わせる。皮肉な事に、基本プレイ無料&アイテム課金モデルは元を辿れば海賊版の氾濫に原因がある。アジアでは海賊版が出回っているため製品パッケージをなかなか買ってもらえない。そこでNexonやNCsoftなどの韓国企業はサーバーベースのオンラインゲームを立ち上げ、海賊版に邪魔されない新たなビジネスモデルを確立したのだ。

最初は月額課金システムだった(世界初の100万人MMO、NCsoftの「リネージュ」も含む)が、韓国のゲーム業界は次第に基本プレイ無料モデルへ移行した。利益は小額の課金を細かく繰り返して得る。Nexonの「カートライダー」や「メイプルストーリー」がその例だ。こうしたオンラインゲームの顧客が1000万単位になるにつれ、韓国式モデルは欧米の開発元の注意を引く様になった。そして自前の基本プレイ無料ゲームをアジア市場に投入したのだ。EAの”FIFA Online”、Valveの”Counter-Strike Online”、THQの”Company of Heros Online”などである。

F2Pゲームの展望はこうだ。まず無料のゲームでプレイヤーを釣る。そして次第に夢中にさせ、金を使わせる。ただしそれをデザインするのは並大抵の事ではない。実際、F2P以前の時代が開発者にとってどれほど幸せだったか思い知る事だろう。製品パッケージなり、月額課金なりの定額の世界。そこでは開発者は1つの事に集中できた。とにかく面白く、魅力的なゲームプレイを作り出す事に。

しかしF2Pの世界は違う。新参プレイヤーを釣る為に無料部分は面白くなくてはならないが、しかし面白すぎてもいけない。欲求不満を起こさせて最終的に何らかの課金に結びつけねばならない。デザイン上の決定は全て、無料部分と課金部分のコンテンツのバランスを念頭に行われる。即ち、海賊版氾濫の真のコストとは、ゲームビジネスとゲームデザインの境界が曖昧になる事だ。ゲームが製品パッケージから継続サービスに変わるに連れ、経営上の判断とデザイン上の判断は切り離せなくなって来ている。勿論、過去にもそういう時代はあった。アーケードゲームの基本デザインはいかにプレイヤーから25セント玉をむしり取るかである。ならばF2Pゲームがこの同じ水域をどう渡ったかは示唆に富むだろう。

 

経営かデザインか?

先に述べた2D MMORPG「メイプルストーリー」はゲーム内にリアルマネーショップが設置され、キャラクターの使うアイテムを購入できる様になっている。陰影とか青髪といった見た目を変えるだけのアイテムもあれば、ゲーム内で効果を発揮する消費アイテムもある。消費アイテムは24時間獲得経験値が2倍になるチケットとか、キャラクターのテレポート、パラメータの振り直しなどである。公平性確保のため、アイテムの効果は時間の節約のみに留まり、キャラクターを直接強化はしない。この区別は重要だ。課金にゲーム内での意味を持たせつつ、最高の装備が得られるかどうかとは無関係にする。ここが”ZT Online”と違う。

また別のF2Pビジネスモデルもある。ブラウザMMORPGの”RuneScape”は、基本プレイが無料。任意で課金もできるが、これはアイテムを買うのでなく月額課金である。課金すると追加のクエストやエリア、住宅の所有、特別スキルなどが解禁される。ここでもまた無料部分と有料部分の線引きがデザイン上の問題になる。無料部分は人を増やし、有料部分は収益をもたらすのだ。現状では6人に1人が課金しているとの事で、良好なバランスを保っていると言えよう。

「トラビアン」は成功したブラウザMMO戦略ゲームである。こちらは金を払ってゲーム内の一時ブーストが得られる様になっており、1週間の間木材の生産+25%とか攻撃力+10%とかである。この仕組みはプレイヤー間でも賛否が分かれる。高レベルの競争を勝ち抜くには課金が必須になっていると感じている様だ。また「トラビアンPlus」という課金機能もある。インターフェースが改善されてプレイ効率が高まるというものだ。マップの表示が広がったり、戦闘をシミュレートできたり、内政管理ツールやグラフ情報画面を使えたり、生産をキューに入れたりできる。

こういった機能はパッケージ入りの戦略ゲーム、例えば”Civilization 4″だったら最初から入っている。わざわざ最高のゲームを出し惜しみするのはいささか危険を伴うだろう。無料版のインターフェースを故意に使いにくくしておいたら、そのままプレイヤーに逃げられてしまう事もある。例えば「トラビアン」では、町は一度に1つのアップグレードしか建設できない。そしてアップグレードはせいぜい30分で終わるので、プレイヤーは日に何度も何度も町をチェックする羽目になる。そうでなければ競争に負ける。簡単な生産キュー方式を導入すれば問題は解決するのだが、開発元は金を払って「Plus」を購入したユーザーにのみそれを提供している。

この決断が正しいかどうかは何とも言い難いが、もっと重要な事は「誰が」この決断をしたかである。ゲームデザイナーか、それともビジネスマンか? いやそもそも両者の区別に意味はあるのか? ゲーム内の要素全てに値段が付けられているというのに? 収益と面白さのバランスを上手く取らなければ、F2Pゲームはユーザーから金を搾り取る欺瞞システム(ZT Online)になるか、碌に収益を上げられない実質無料ゲームになるかのどちらかである。だがどうしても迷ったら、面白いコンテンツを無料で開放する方に転ぶべし。強欲に任せて短期間の利益を追求すれば、結局はゲームが無料ではないという認識が広まり、布教してくれるファンを失ってしまう。

 

市場原理による解決

韓国のNexonは面白い解決策を持ち出して来た。2つの通貨を用意し、市場原理によってバランスを取るのである。「パズルパイレーツ」はJavaを用いたブラウザMMOで、金のあるプレイヤーと時間のあるプレイヤー、両方を満足させる仕組みになっている。一方の通貨はレアルといい、時間を費やしてパズルゲームを解く事で獲得できる。もう一方の通貨はダブルーンといい、リアルマネーを払って買う。ゲーム内では見た目の変更からキャラクター強化まで様々なアイテムが販売されているのだが、ほとんどは両方の通貨を代金として支払わねばならない。よってダブルーンを買えないプレイヤーは、金持ちのプレイヤーと交渉してレアルと交換してもらう事になる。一方金はあるが時間のないプレイヤーは逆の取引をする。そして両方の通貨は市場で自由に取引できる。こうすれば同じアイテムを様々な方法で買う事ができるわけだ。

こうして全てのコンテンツが課金と無課金両方のプレイヤーに開放され、「トラビアン」に起きた問題は解決された。実際の所、時間のあるプレイヤーが取引でダブルーンを手に入れたとすると、その相手の金持ちプレイヤーは「スポンサー」になっている。どんな形であれ、ダブルーンが消費されればそれだけ運営の収益になるのだから。自由市場の働きにより両プレイヤーのバランスは保たれる。もし時間のあるプレイヤーが多くなり過ぎれば、レアルの相場は暴落し、少しの金を使うだけで大きな優位が得られるぞとプレイヤーを誘う。二重通貨市場の見えざる手により、デザイナーは皆が遊び続けてくれる面白いゲームを作る事に集中できる。

Giant Interactiveも、金持ちから搾り取る”ZT Online”の限界に気付き始めている様で、月額課金版ZTが開発されている。ガチャポンを無くして金持ちプレイヤーと張り合えない低所得層を引きつけようとしているのだ。また”Giant Online”というのも発表された。中所得層向けのゲームで、課金要素はあるが限界値が設けられている。

こうした開発努力は喜ばしい。F2Pゲームには大いに明るい展望がある。箱入りのゲームと違い、時間のある人無い人、経済的余裕のある人無い人全てを引きつけられる。また実験的な作品も作りやすいだろう。箱入りゲームと違い、前払いで「内容を信じて買う」事をしてもらう必要が無いからだ。とは言え、F2Pゲームの開発者はデザインだけをしていれば良いわけではない。人気と利益を得るには、ゲームデザインとビジネスモデルの合致が不可欠である。

原文:http://www.designer-notes.com/?p=115