翻訳記事:リアルタイムVSターン制

これは翻訳記事です

GDC#8:リアルタイムVSターン制

2010/2/1 Soren Johnson
Game Developer誌2009年8月号に掲載された物の再掲

 

ゲームの企画を立てる際の重要な問題に、ターン制かリアルタイムかという選択がある。どちらの仕組みも一長一短だ。ターン制は戦略性と透明性に優れるが、アクション性のあるゲームに慣れたプレイヤーには少々まどろっこしい。リアルタイムゲームは没入性が高くマルチプレイにも向くが、スピード調整を間違うと初心者が付いて行けない。

言うまでもなく、ターン制ゲームはボードゲームの直系子孫である。ビデオゲームより歴史は古い。実際、ターン制ゲームを好む層とボードゲームやカードゲームを好む層はかなり一致している。リアルタイムゲームの方は、スポーツを除けばコンピュータ出現以降の文化である。リアルタイム制でしか実現できなかったであろうゲームも多い。「スーパーマリオブラザーズ」、”Team Fortress”、”FIFA”、「パックマン」などだ。

しかしターン制とリアルタイム、どちらでも実装できるゲームもある。そしてそれぞれに長所と短所がある。ローグライクのダンジョン探索ゲームはターン制とリアルタイムの両方が登場している。”NetHack”など初期の作品は純粋なターン制だ。プレイヤーが何か行動しない限りゲーム内の時間は進行しない。一方、Blizzardの”Diablo”は同様の探索&アイテム集めゲームをリアルタイム環境で実装し、戦略性は下がったものの人間の本能に訴える中毒性の高い作品に仕上げた。またターン制には付き物の待ち時間無しでマルチプレイができる様になっている。

とは言え、”Diablo”の登場でターン制ローグライクが廃れたわけではない。「ポケモン不思議のダンジョン」や「風来のシレン」はまた違った良さがある。つまり、ターン制とリアルタイム制の選択はどちらが優れているかという問題ではなく、どちらが作りたいゲームに適しているかの問題である。

 

どれだけの要素を詰め込むか?

ゲームを手っ取り早く理解する方法の一つは、マスターするのにどれだけのシステムや要素を覚えなくてはならないかを見る事である。例えばFPSは10個程度の武器が登場する。RTSは各陣営15種類程度のユニットがある。RPGは20個かそこらの呪文が使える。要素や選択肢の多さだけでも初心者は怯えてしまう事がある。リアルタイム制で時間制限が付けば尚の事だ。

初代”Civilization”のプロトタイプはリアルタイム制だった。元々「シムシティ」を世界スケールにしようというコンセプトで作った物である。しかしすぐに、あまりに多くのゲームシステムが一気に押し寄せて対処不能になる事に気がついた。「シムシティ」には外交も、貿易も、戦闘も、研究も、厄介な蛮族も存在しなかったのである。結局ターン制に路線変更してプロトタイプを作り直す運びとなった。「あと1ターンだけ」はこうして生まれた。

ゲームを開発するに当たっては、どれだけの「要素」を詰め込むかに注意せねばならない。さもないと訳が分からなくなってしまう。ターン制ゲームには時間制限が無いので、プレイヤーは自分の好きなペースでゲームをマスターできる。上級者は素早くプレイしても良いし、初心者はゆっくり考えてインターフェースを確認しながら進めても良い。

よってターン制ゲームは基本的にリアルタイムゲームより取っ付きやすい。だからカジュアルゲームの多くはターン制だ。「ソリティア」や「マインスイーパ」しかり、PopCapの”Bejeweled”、”Bookworm”、”Peggle”しかり。

 

秩序か混沌か?

ゲームの核となる部分において、ターン制とリアルタイム制は異なる強みを持っている。例えば、ゲームを秩序だったものにするか、混沌とさせるかという問題だ。前者の場合、行動の結果がどうなるかを予め十分に検討する事で成果が得られる。パズルクエストで骸骨を4つ並べたら上のジェムが落ちて来て連鎖する、といった具合だ。次に何が降って来るかなど多少のランダム要素もあるが、基本的には次に何が起きるかを頭に入れてプレイしなくてはならない。秩序立ったゲーム性はターン制の強みである。

一方、リアルタイムは展開が予測不能なゲーム性をもたらす。”Team Fortress 2″でチームがメディックばかりだったらピンチである。しかしその後の展開がどうなるかは様々だ。状況をゆっくり検討している時間が無いからである。その間にスナイパーに狙撃されるかも知れない。爆弾で吹っ飛ばされるかも知れない。スパイが裏から回り込んで来るかも知れない。またマップの反対側での情勢によって、ある地点を放棄する事が最善になるかも知れない。リアルタイムゲームは予測不可能なゲーム展開に向いている。時間が等しく流れる中では、状況を定石化して決まった手を打つ事などできはしない。

 

マルチプレイかシングルプレイか?

マルチとシングルのどちらに力を入れるかもターン制とリアルタイム制の選択に関わる問題だ。基本的に、マルチプレイはリアルタイムと相性が良く、ターン制はシングルプレイ重視になりやすい。”Advance Wars”や”Civilization”といったターン制ゲームのマルチプレイを本気でやり込んでいる人はごく少数である。一方、”Command & Conquer”や”Age of Empires”など似た様なテーマのリアルタイムゲームはマルチプレイが中心だ。

理由は単純だ。順番待ちは楽しくないからである。それゆえ同期マルチプレイに焦点を当てたゲームを作る場合はほぼリアルタイム制を選択する事になる。一方、シングルプレイが中心のゲームなら順番待ちの問題は無いので、ターン制要素を入れても全く問題無い。オマケ的要素であれ戦略性を高める為であれ。例えば、シングルプレイ用ゲーム”Fallout 3″はリアルタイムの戦闘中にポーズをかけてV.A.T.S.モードに入れる。これで敵の体のどの部位を狙うか検討したり、選択肢それぞれの成功率を表示する事すらできる。同様に、”Baldur’s Gate”シリーズもターン制とリアルタイムのハイブリッドだ。戦闘は基本的にリアルタイムだが、ダメージを受けたり新しい敵が出現したりすると一時停止する。

 

型を破る

しかしゲーム界全体を見渡せば、「純粋な」ターン制とリアルタイム制の中間がいくらでもある。例えば”Madden”の時間制限付きターンはどうだろうか? “X-Com”は戦略部分がリアルタイムで戦術部分がターン制だがこれはどうなる? “Total War”はその逆だが果たして? “Europa Universalis”は形式的にはリアルタイムだが、ペースが遅いのでターン制の様に感じられる。また非同期のWebゲーム、「トラビアン」などはどうか? 勝負は分単位でなく月単位に及び、時間制限に追い立てられる事が無いままマルチプレイにおけるリアルタイムの良さを取り入れている。”Bang! Howdy”はよくあるマス目型SLGだが、ユニットのターンはリアルタイムで回って来る。つまり現実にはターン制とリアルタイム制の極があり、その中間を無数のゲームが埋め尽くしているのだ。

問題はどちらの形式を備えているかでなく、どういうゲーム性を備えているかである。例えばTD系のゲーム「プラント vs. ゾンビ」は形式上リアルタイムだが、ゲーム制は伝統的なターン制ゲームに近い。シングルプレイ用である事に加え、ゲーム自体が非常に秩序立っている。マップは5つの段から成りそれぞれ横幅9マス。段の上をゾンビが歩いて来るのでマスに植物を置いて迎撃する。更に、ゾンビの挙動は完全に決まっている。棒高跳びゾンビは常に障害物を跳び越える。たとえその先に人食い植物が口を開けていてもだ。傍から見ていると混沌としたゲームだが、実際は多くのTD系と同様、予見可能な敵の動きに基づいて戦略を立てる。リアルタイム要素は単に時間制限を付けているだけで、リアルタイムゲームによくあるマルチプレイの予見不可能性などを加えているわけではない。

同じ様に「ブームブロックス」もターン制ゲームながらそれらしくないゲーム性を持つ。決まった回数の投擲で重ねたブロックを崩すのだが、物理演算システムによって結果は予測が難しくなっている。また5×9マスの「プラント vs. ゾンビ」と違い、「ブームブロックス」はWiiリモコンのアナログな操作で画面に向かってボールを投げる。カオス理論の示す通り、完全に同じ投擲が2度続く事はまずあり得ない。この予見不可能性と、投擲1回というターンの短さのお陰で「ブームブロックス」は素晴らしいマルチプレイヤーゲームになっている。ターン制ゲームにはなかなか無い事だ。

つまるところ、ゲームの形式をターン制にするかリアルタイムにするかの問題は、どちらのゲーム性が全体のデザインに相応しいかの問題ほど重要ではない。型を知って型を破るの謂である。

原文:http://www.designer-notes.com/?p=151