翻訳記事:勝つ為に戦う(20)

これは翻訳記事です

 

プレイスタイル:亀

あらゆるゲームコミュニティは、他のゲームコミュニティの歪像である。同じ様な性格と同じ様なプレイスタイルがどのゲームにおいても繰り返し現れる。チェスの歴史を紐解いてプレイヤーの性格を調べると、それがストリートファイターの世界と余りに似ている事に驚かされる。これから私はそれらの性格について語る。そして極めて賛否の分かれるだろう立場を取る。即ちある1つの性格が他の全ての性格に勝るという主張だ。上級プレイヤー層は様々なプレイスタイルの混合であるが、「真の」スタイルこそその中で頂点を占める。私自身はそのスタイルの持ち主ではないが努力はしている。もしかしたら読者の身近にもそういったプレイヤーがいるかも知れない。

 


チェスプレイヤー:チグラン・ペトロシアン (1929-84)

ペトロシアンはしばしば指し手が地味だと評される。彼は自分のポーン陣形に非常な注意を払い、滅多に弱点を露出しなかった。彼は相手の攻撃が始まる前にそれを止めようとした。

「ペトロシアンは主導権を握ると、蛇の如くじわじわと締め付けた。相手が喜んで投了するまで圧迫するのだ。旗色が互角ならマングースの如く全ての攻撃をいなしてしまった」—正直なチェスプレイヤー、ラリー・パー

私の村ではこの種のプレイヤーは違う動物に例えられる。亀だ。亀はリスクを取らず、不必要な動きは一切しない。ゆえに観客はたいてい亀が大嫌いだ。ペトロシアンは批判に応えてこう言った:

「私のチェスは用心深過ぎると考える人もいるが、問題はそこではない。私は好機を避けているのだ。好機に依って戦わんとするならトランプやルーレットをする方がいい。チェスはそれとは違う物なのだ」—チグラン・ペトロシアン

「もっと面白いチェスを見せてくれと言われる事もある。その場合私は負けるだろう」—チグラン・ペトロシアン

2つ目の返答は問題の核心を突いている。ペトロシアンを含むほぼ全ての亀プレイヤーは、単に与えられた状況で勝つ為に最善を尽くしているのだ。ペトロシアンはそれほど多くの大会で優勝しておらず、大抵は2位か3位だったが、それでも彼を打ち破る事はほとんど不可能だと思われていた。そして亀プレイヤーにも勝利の日は来る。1963年、チェス世界選手権でそれまでの王者ミハイル・ボトビニクを破ったのだ。

 

ストリートファイタープレイヤー:リッキー・オーティズ

オーティズは小さな変わり者だ。華奢で女性的、ヘアスタイルと髪の色を始終変えている。顔に光り物を付ける時もある。そしてペトロシアンと同様、「地味」なプレイスタイルで批判され、打ち破る事はとても難しいと考えられている。

私自身も大会における辛抱強さと相手を苛立たせる技術には定評があるが、オーティズはそれを遥かに上のレベルで行う。彼はほぼゼロリスクの試合をし、僅かな体力リードを得たら恥も外聞も無く逃げ回る(こうすれば相手は攻撃を当てられず、制限時間が来たら残り体力の多い方が勝つ)。彼の無限の辛抱強さはどんな真面目な対戦相手をも苛立たせ、残り時間に追われた無謀な逆転策へと駆り立てる。オーティズはぬめる魚の如く捕まえにくいのだ。

彼のもう1つの特技は「ちょうど都合のいい間合い」に留まり続ける事だ。自分の攻撃は有効で相手の攻撃は当たりにくいという距離である。苛立った相手から上手く攻撃を誘い、優れた反射神経ですかさずそれに反撃を浴びせる。そして体力リードを得たらますます逃げ、相手(と観客)をますます苛立たせるのだ。

 

原文:http://www.sirlin.net/ptw