Hearthstoneの戦い方(6)

CCG “Hearthstone” に関して気づいた事をその都度記録。


陸空の区分

このゲームの中心要素はミニオンである。盤上に自分のミニオンを並べて敵を殴り倒すのが全ての基本である。そしてまた、ミニオンは呪文や武器と決定的に違う点がひとつある。対戦相手からアクセスしやすいことだ。

このゲームは相手のターン中にできる行動が一切無く、特定のシークレットを伏せておかない限り発動した呪文を止める方法は無い。相手の手札を捨てさせる事もできない。武器を破壊する手段も限られているし、そもそも一撃目はどうあっても止まらない。ミニオン以外の攻撃手段は相手とのインタラクションが少なく、非常に邪魔されにくいのである。

これに対して速攻を持たないミニオンは場に出てから1ターン経過しないと仕事を始めない。つまり相手に最低1ターンそれを除去/無力化するチャンスが与えられる。ファイアボールを相手の顔面に向かって発射したらもう誰にも止められないが、マウンテンジャイアントが場に出たら次の相手のターンで除去される可能性がある。実際に顔面を殴れるのはその後だ。

そこでゲーム内の攻撃手段をミニオンという「干渉されやすい要素」と武器や呪文などの「干渉されにくい要素」に分割してみよう。そして干渉されやすい部分を「地上」、干渉されにくい部分を「空中」と考える。すると次の様な構図が浮かぶ。

  • 地上:ミニオン同士が殴りあう戦場
  • 空中:ヒーローという空中要塞が浮かぶ彼方

そして地上と地上、空中と空中、地上と空中それぞれの戦いを分類すると:

  • 地上戦:ミニオン同士の戦い
  • 空中戦:ヒーローによる直接打撃
  • 爆撃:ヒーローの呪文や武器によるミニオンの除去
  • 対空砲火:ミニオンによる顔面殴り

という形になる。これによってクラスやデッキの強み・弱み・相性などを説明可能である。

 

ウォリアー

  • 地上戦:全然ダメ
  • 空中戦:スゴイ
  • 爆撃:超スゴイ
  • 対空砲火:全然ダメ

典型的なウォリアーは重戦闘爆撃機である。1:2交換が簡単にできる斧、1マナ除去の処刑、5マナ全体除去の乱闘などミニオンの始末には事欠かない。またグロマシュのコンボによって14点ぐらいまでは簡単に相手の顔面にダメージを叩き込める。相手が干渉できない、ヒーローから直接出てくる攻撃手段が非常に豊富だ。

一方ミニオン同士の殴り合いは貧弱である。固有ミニオンの戦闘力が低く、使われるのは補助系やコンボパーツが中心である。フローシングバーサーカーや実質固有カードの増えるおじさんはあくまで「1ターンで敵ヒーローを殴り倒す」ためのミサイルであり、素出しして敵ミニオンと殴りあう事は稀だ。

こうした地上への対応力の高さと自身があまり地上戦を展開しない性質のため、ミニオン同士の戦いに重点を置いた戦車タイプに対してとても有利である。プリーストがクレリックを出せば斧で始末し、デスロードは処刑し、洗脳されるミニオンはそもそも出さない。一方フェイスハンターやテンポメイジの激しい対空砲火には押し負ける事が多く、顔面を徹底的に殴られると意外に早く陥落する。

 

プリースト

  • 地上戦:超スゴイ
  • 空中戦:ダメ(一部例外あり)
  • 爆撃:スゴイ
  • 対空砲火:ダメ

プリーストは地上戦の得意な戦車である。ヒールで自分のミニオンだけを生き残らせたり、1マナキャントリップで耐久力を増やしたり、敵を弱らせたり洗脳したりととにかく地上戦の選択肢が多い。一方こうした能力でアドバンテージを稼ぐには敵がミニオン同士の地上戦に付き合ってくれなくてはならず、全体的に攻撃力が低い事もあって相手の顔面を殴るのもそれほど得意ではない。

地上戦の強さからフェイスハンターなど対空砲タイプには有利に戦える。一方爆撃機に対しては出せる手が乏しく、ランプドルイドなど大型ミニオンによる地上戦タイプにもやや厳しい。

 

ハンター

  • 地上戦:まあまあ
  • 空中戦:スゴイ
  • 爆撃:まあまあ
  • 対空砲火:スゴイ

ハンターの最大の強みはヒーローパワーである。阻止手段のない2点ダメージはHPを回復できないデッキにとっては迫り来る死そのものだ。瞬間的なバーストダメージは乏しいが継続的な顔面殴りでは他の追随を許さない。

この強みを素直に活かしたのがフェイスハンターで、駒損は厭わずとにかく顔面に打撃を加える。他のヒーローであればあと1点が削り切れずに逆転負けする局面でもハンターならば確実に討ち取る。展開の遅いデッキは何もさせずに殴り倒してしまう。一方速攻持ちなどミニオン同士の殴り合いには弱い物が多く、戦車に対しては不利になる。

一方、堅実なミニオンを並べて盤面を取るミッドレンジハンターも存在し、こちらは地上戦がかなり強い。その代わり性質が戦車に近くなった事で爆撃機タイプには盤面を処理されてしまう場合が多い。

 

メイジ

  • 地上戦:ダメ
  • 空中戦:スゴイ
  • 爆撃:スゴイ
  • 対空砲火:まあまあ

メイジの強みは豊富な呪文である。フロストボルトやファイアボールは明らかに強く、ミニオンの除去に使っても相手の顔面にぶつけても有効である。ミニオンも呪文と相互作用する物が多くいかにも魔法使いだ。一方殴り合いの性能はそれほど高くなく、普通に展開しただけでは押し負けてしまう。

この問題を2つの工夫によって解決したのがメックメイジやテンポメイジだ。即ち「除去と展開を同時に行う」「相手の除去を邪魔する」である。

ブラストメイジは自身も相応の大きさを持ったミニオンでありつつ、登場と同時に4点火力を撒き散らす。フレイムウェイカーとポータルの組み合わせも召喚と砲撃を同時に行う。アプレンティスが居れば1マナで3点火力を浴びせつつ、余ったマナでミニオンを展開できる。こうして敵ミニオンを除去してしまえば殴り合いは回避できるわけだ。

またアノイオトロンやミラーイメージによって盾を作り敵ミニオンを押しとどめておくのも重要な戦術である。本命ミニオン同士の潰し合いを遅らせつつ相手の顔面を殴り、ファイアボールによる即死圏まで持っていく。武器を持ったヒーローが相手ならスノウチャガーやフロストボルトで凍らせる。こうした継続的な対空砲火によって遅いデッキや地上戦の苦手なデッキを叩きのめすのである。

これに対し、フリーズメイジは強力な除去で前半を凌ぎ、後半になったら強力な火力呪文で相手の顔面を粉砕するという素直に強みを活かした構成である。分類は戦闘機に近い。

 

ウォーロック

  • 地上戦:スゴイ
  • 空中戦:ダメ(一部例外あり)
  • 爆撃:まあまあ
  • 対空砲火:スゴイ

ウォーロックの強みはヒーローパワーだ。カードを1枚引けるのはほとんどの局面でアドバンテージを生み出す。敵ミニオンと1対1で交換しても自分はカードを補充できるし、マウンテンジャイアントなど手札枚数参照系の大物を素早く繰り出す事もできる。以前は大物中心のハンドロックと小物中心のズーロックが分かれていたが、最近は両方のいいとこ取りをしたハイブリッドが多くなった。

資源基盤が潤沢なお陰でまともに戦えば相当に強いが、HPを消費してしまう関係で顔面を集中的に殴るタイプには極端に弱い。また攻めも守りもミニオンに頼る割合が大きく、除去を山積みしたデッキには封殺される。

 

ドルイド

  • 地上戦:スゴイ
  • 空中戦:スゴイ
  • 爆撃:ダメ
  • 対空砲火:ダメ

典型的なドルイドは2つの強みを持っている。マナ加速によって大型ミニオンが敵よりはるかに早く出て来ること。そして自然の力と野生の唸りによる14点コンボである。ヒーローから直接出て来るダメージ源は相手の顔面に向かい、ミニオンを止めたり殴り合ったりするのは自分のミニオンという風に比較的役割分担がはっきりしているのが特徴だ。除去呪文も一応あるものの、大型ミニオンや多数が並んだ場合など対応できない局面がかなり多い(少なくともTGTリリース前の現時点では)。

戦車と戦闘機の両方の性質を持っている事から爆撃機タイプにはかなりのプレッシャーを与えられる。自然の力コンボのせいで即死圏がかなり広く、除去の過程でHPをあまり消耗できない。またミニオンを盤面に残しておく事自体にかなりのリスクがある。一方動き出しの遅さから速攻デッキに殴り倒される事もしばしばある。

 

シャーマン

  • 地上戦:ダメ
  • 空中戦:スゴイ
  • 爆撃:まあまあ
  • 対空砲火:超スゴイ

シャーマンはドルイドとはある意味で逆の構成になっている。ミニオンはミニオン同士の戦いには弱いが顔面を殴る能力が非常に高い。2回攻撃とフレイムタントーテムを組み合わせると恐ろしい速さで敵のHPが溶けてゆく。一方敵のミニオンを始末するのはヒーローの仕事であり、3マナ除去のヘックスや各種の武器を用いて確実に仕留める。空対地と地対空という役割分担になっているわけだ。

と、理屈の上では強力なのだが現環境では除去がうまく機能していない。アースショックはルートホーダーの天敵だが最近はあまり使われない。パワーメイスは3マナという重さのためその後に出るミニオンを討ち取りにくい。サンダーストームは取りこぼしが発生しやすい。またメイジと違い敵の除去を妨害する手段が豊富なわけでもなく、爆撃機タイプに対してしばしば攻め切れずに終わる。

こんなわけで構築戦で困難な状況にあるシャーマンだが、2回攻撃やブラッドラストの爆発力はとても大きな魅力だ。敵は序盤の対処に失敗すればそのまま棺桶へ超特急でぶち込まれる。メタが長期戦中心になり、軽い除去をあまり持たないデッキが増えれば急速に暴れ出すだろう。

 

パラディン

  • 地上戦:スゴイ
  • 空中戦:まあまあ
  • 爆撃:まあまあ
  • 対空砲火:まあまあ

武器・除去・ミニオンがバランス良く揃っており、ディバインシールドのお陰で地上戦もかなり得意だ。顔面に撃ち込む強力な呪文は乏しいが武器で少しずつ削り取れば蓄積ダメージはかなりのものになる。

典型的なアグロパラディンは対空砲に除去耐性を加えた形で構成されている。ディバインシールド・デスラトル・サイズ増加・単純な頭数の多さなどを組み合わせてミニオンでも武器でも討ち取られにくい盤面を作り、できるだけ長い時間にわたって顔面を殴り続けるというものだ。たとえミニオンを一掃されてもディバインフェイバーで手札を回復でき、持久力の点でも優れている。

ただし単純な速度という点ではテンポメイジやフェイスハンターよりやや落ちる。またパラディン自身に瞬間的な大ダメージ源が無い事もあり、敵に与える脅威はマイルドになっている。

 

ローグ

  • 地上戦:全然ダメ
  • 空中戦:超スゴイ
  • 爆撃:スゴイ
  • 対空砲火:ダメ

現環境での典型的なローグはオイルローグである。敵の脅威を除去で凌ぎつつスプリントでカードを引き、材料が揃ったら一気に即死級のコンボを繰り出す。相手にとってHP20は全く安心できる水準ではない。

こうしたコンボデッキに共通の弱点は、序盤からプレッシャーを与えられると対処に忙殺され必殺技の準備ができない事だ。デッキ内のかなりの割合を最終ターンに使うカードが占めているという事は、相手よりも有効牌を引く確率が低いという事である。もちろんコンボパーツを眼前の脅威への対処に使う事もできるがそうすると今度は勝つ手段が減ってしまう。飛車を防ごうとしても上手く行かないが、王手飛車取りをかけ続けると存外脆いというわけだ。

 

 

(´・ヮ・)<どうして拡張が出て内容が陳腐化する寸前に書くのか理解に苦しむね

ルールデザインの話(3)

ゲームのルールを作る際のあれこれ


簡単さ

面白い意思決定と並んで重要なのが簡単さだ。ルールは誰でもさっくりと理解できる程度に簡単になっているべきである。人生は短い。難解なルールブックとにらめっこして過ごせる時間はそう長くない(せいぜい10代の10年間を丸々当てられる程度だ)。そこで今回は簡単なルールについて考察してみよう。

柱となる要素は3つある。一貫性があること。個々の要素が単純であること。テーマに沿ってうまく説明されていること。そしてこの順番に重要である。

 

一貫性

ユーザーインターフェースデザインの鉄則はパターンを定めてそれを繰り返すことだ。ある設定ウインドウが閉じるだけで変更を保存する方式なら他のウインドウもそうなっているべきである。あるアラートで”Yes”が右で”No”が左なら他のアラートでもそうなっているべきである。これと同じ意味で、ルールデザインも挙動のパターンを決めて繰り返すことが重要である。

例えばプレイヤーにできる行動が「ワーカー駒を職場に置く」であれば、新しい行動は職場の追加という形を取るのが望ましい。ワーカーと無関係な起動型能力などはねじ込まない方が賢明だろう。プレイヤーの資源収入がターンごとの不労所得に依存しているゲームなら、「建てるとじわじわ収入が得られる施設」と「建てた瞬間に何かがもらえる施設」を並存させるのは混乱の元だろう。ひとつのパターンを踏襲する方が分かりやすい。

特に、微妙に違うふたつのパターンが無文脈に混在していると非常に間違いやすい。カードを引いてから捨てる機能と捨ててから引く機能が涼しい顔で同居していると毎回ルールテキストを注視せねばならん。金をサプライから取る職場と資源置き場から取る職場が並んでいて、かつプレイヤー全員がメタクソに酔っ払っていると何が起きるかはほぼ予測可能だ。ひとつのゲームの中ではひとつの挙動に統一した方が遊ぶ側の心的負担は少なくて済む。

「アグリコラ」と「ルアーブル」を比較すると面白い知見が得られる。どちらも同じ作者の手によるワーカープレイスメントゲームで、プレイヤーは手番ごとに職場を起動して資源を集める。戦略的な奥深さではルアーブルの方が完成度が高いが、ルールの一貫性と遊びやすさではアグリコラが勝る。

アグリコラではプレイヤーが手番でできる事はワーカーを職場に置くだけだ。一方ルアーブルではワーカーを職場に置くか、資源置き場から1種類の資源を取るかという2種類の行動のどちらかを選ぶ。さらにそれとは別に手番中ならいつでも建物や船を売り買いできる。アグリコラの資源は職場に紐付いているが、ルアーブルには「資源置き場から取る」「職場を使ってサプライから取る」「職場を使って資源置き場から取る」など種々に異なった挙動がある。またルアーブルでは他人の職場を使う際に使用料を払うのだが、一部の職場はそれとは別に起動コストとして金を払う。これは職場の持ち主でなくサプライに支払うのだ。

一事が万事この調子でとにかくルアーブルは例外挙動が多い。「市場」はサプライから資源を取り「闇市」は資源置き場から取る。そしてテストプレイヤーが混乱した痕跡として両方のカードにくどくど念を押す如く説明が書かれている。これは意思決定という観点において物凄く面白いゲームであると同時に、物凄く取っ付きの悪いゲームでもあるのだ。

 

単純さ

一貫性の次に重要なのは単純さである。要するに「カードを2枚引く」という挙動は「残り手札が奇数であれば山の一番下から4枚のカードをめくり、それらのコストのうち最も高いものと残り3枚の中から無作為に1枚を引く」よりも扱いやすいという話である。単純なものが望ましいという事にはたいていのルール制作者が同意するが、それでもなんやかんやで複雑なものは世に生まれ出ずる。理由は大体3つだ。

  1. バランスを取るため
  2. デザイン空間を広げるため
  3. 価値の見積もりを難しくするため

1は強さの調節の結果として生じる複雑さである。1点のダメージを与えるのでは弱すぎるが2点のダメージでは強すぎる……という場合にしばしば「1点のダメージを与える。コイン投げをして勝ったらもう1点のダメージを与える」などの中間案が採用される。

2は多様なものや過去に無かったものを作る努力の帰結である。「X枚のカードを引く」という機能で作れるバリエーションはせいぜい7種類かそこらだが、X枚のカードを色々込み入った手順で引くのであればその中の手順や数値や条件分岐を組み合わせて数十万種類のバリエーションが生成できる。デザイン空間の中の単純な土地はわずかな面積しか無い。開拓を進めるとどうしても複雑さの荒野へ向かわざるを得ない。

3は意思決定の際にどれが得かを考え込ませるための意図的な仕掛けだ。つまり、2枚のカードを引くのと3枚のカードをごちゃごちゃした手順で引くのとどちらが得かプレイヤーは容易に見積もることができないので、意思決定の作業が必要になるというわけだ。

実はこれらの問題はゲーム内の数値を巧妙に利用することで回避可能である。設計段階で複数の資源を用意し、それぞれの価値比率が綺麗な倍数にならない様に調節しておく。例えば消費財カード3枚は建物カード2枚より価値が大きいが消費財4枚は建物3枚よりほんの少しだけ落ちるとか、1点のダメージは2点のマナ回復よりは有効だが2.5点のマナほどには重くないという具合だ。

こうしておくと、例えば「2点のダメージ」よりほんの少しだけ弱いものを作りたい場合に「1点のダメージと2点のマナ」という形で微調整が利く。逆にほんの少し強いものを作りたければ「1点のダメージと3点のマナ」にできる。もし1点ダメージと2点マナが等しいという風に綺麗な価値比率が出来ているとこうした小技は使いにくい。

また細かい「お釣り」を出せる関係で作れるものの幅も広がるし、共通項を差し引く操作もやりにくくなるのである程度の解析耐性が付く。もちろん数値設定だけでありとあらゆる問題が片付くわけではないが、複雑さを避ける上では結構便利である。

 

テーマによる説明

挙動そのものは複雑でもプレイヤーの知識を活用することで分かりやすく伝えられる。ルアーブルの埠頭という建物は手持ちの資源を金に変換する機能を持っている。資源はそれぞれいくらで売れるかが決まっており、また一度に売れる量の上限は手持ちの船舶数で決まる。さらに追加コストとして船舶数×3の燃料が必要だ。こうしたルール自体は確かに複雑だが、「商品を船に載せて出荷する」という文脈が与えられることで理解可能な範囲に収まっている。一方同じゲームのパン屋はやや奇怪で、小麦と燃料を消費してパンと金を生成する。どうしてパンと売り上げが同時に手元に残るのか? まるでEat cake and have itという慣用句の物理的顕現だ。挙動そのものは単純なのにプレイヤーの理解を微妙に拒むのである。

工場は原料を加工して製品を吐き出す。発電所はエネルギーを生む。道路のあるところは歩きやすく、傭兵は金を請求し、ドラゴンはやたら熱いガスを吐いて人間を炭にする。プレイヤーが既に知っている事に沿って挙動を説明すれば頭に入りやすくなる。「このルールに最もうまく近似した現象はなんだろう?」と問い、適切な名前と背景設定とフレーバーを与えることでゲームを少しだけ取っ付きやすくできる。そんなわけで珍妙な得点方式を持ったゲームには「気まぐれに恩寵を与える王」が出てくる決まりなのだ。

ルールデザインの話(2)

ゲームのルールを作る際のあれこれ


意思決定

ボードゲームのルールは面白い意思決定を生み出すために存在している。意思決定というのは要するに「う〜ん農場を作ろうか工場を作ろうか労組を作ろうか」と悩んだり考えたりするプロセスだ。農場を作れば素早く手札を増やせるが次の建物の選択肢は増えない。工場は別の建物を作る材料を吐き出すが少し元手が要る。労組はどちらの機能も無いが得点源になる。果たしてどれが一番いいのかと考えを巡らす現象が「ゲーム体験」そのものである。

意思決定の要諦は答えを一義的に絞り込めないという点だ。そこで「どれにしようかなあ」と考えるものを意思決定、考えるまでもなく正当な答えが1つしか無いものを機械的判断と呼んで対比してみよう。

機械的判断の例

機械的判断の特徴はON/OFFが明確にされる事だ。例えばこの「どこへ出かけよう?」フローチャートでは雨天時には「家にいる」以外の全ての選択肢がOFFになり、人生に疲れていない時は「近所の森」はOFFになる。与えられた状態に対して選ばれうる結果は1つだけであり、他は全てプロセス違反である。

意思決定の例-01

一方、意思決定は複数の選択肢に選ぶ理由がある時に、その理由の大小を比較して天秤を傾けるというアナログな工程だ。2つの映画のどちらを観ようか迷ったら、頭の中に天秤を用意して両方の皿に水桶を載せる。一方の映画に好きな俳優が出ていたらそちらの桶に水をジョボボボボと注ぐ。もう一方の映画の方が上映時間の都合が良かったらそちらにジョボボボと注ぐ。こうやって諸々の理由を量的に足し合わせて、最後に傾いている方を選ぶわけだ。それ以外の理由が全く拮抗していたら、アベンジャーズの陳腐なキャッチコピーを見た瞬間に均衡が破れてターミネーターに傾くかも知れん。全ては量的な問題なのだ。

 

選ぶ理由、選ばない理由

意思決定とは、複数の選択肢に選ぶ理由がある場合の判断過程である。より厳密にはある選択肢に「選ぶ理由」と「選ばない理由」の両方が同時に存在している時の判断である。

そもそも2本の映画の間で悩むのは、一方を観たらもう一方を観る時間が無くなるからだ。家にいて無限の時間があり2本のDVDを持っているならどちらを観ようかと悩む事は無い。「こっちを選んだらアベンジャーズは観られないよ!」という機会損失がターミネーターを「選ばない理由」として働くわけだ。

ゲームのルールはこうした選ぶ理由と選ばない理由のせめぎ合いを生成する。自分のキャラクターを改造して速さを3割増にできるが耐久力が半分になるという場合、速さの増加が選ぶ理由、耐久力の減少が選ばない理由として働く。両者の価値がそれほど隔たっていなければ改造するかすまいか悩むだろう。

同じ悩みが機会損失の場合でも起きる。改造Aを施すと速さが3割増になり、改造Bを施すと耐久力が倍になる。ただしAB両方を取る事はできない。この時に改造Aを選ぶ理由は速さの増加であり、選ばない理由はBを選べば得られたはずの耐久力の喪失である。「ジェットブーツを履くと体がヤワになるよ!」と「ジェットブーツを履くと鎧は着られないよ!」は本質的に同じ選択を提示しているのである。

 

理由の対消滅

面白い意思決定を生むルールとは、ゲーム内の諸々の選択肢にそれぞれ選ぶ理由と選ばない理由があるものだ。どの選択肢もあまり魅力的でなく「選ぶ理由」が不足していると雲を掴むような薄味ゲームになる。あまりに魅力的すぎる選択肢があって「選ばない理由」が不足しているとバランスの崩れた大味ゲームになる。両方の理由をうまく並存させなくてはいかん。

ここで問題になるのは、プレイヤーは何とかして選ぶ理由と選ばない理由を対消滅させて意思決定を省こうと試みるという事だ。最も単純な例として:

  • A:6勝利点を得る
  • B:5勝利点を得る

という2つの選択肢が提示されたとする。Aを選ぶ理由は6勝利点を得る事であり、選ばない理由はBを選んでいたら得られたはずの5勝利点を失う事だ。そこで代数学よろしく両方から5勝利点を差し引くと:

  • A:1勝利点を得る
  • B:なし

という具合にAを選ばない理由が消滅する。選ぶ理由にはなお1勝利点が残っているので、最早選ぶ理由と選ばない理由の比較は必要なくなり機械的判断のみでどちらを取るか決められる。もちろんこれはバカバカしい例なのだが、もっと複雑な選択でも同じプロセスが起きるのだ。

例えば今度はそれぞれの選択肢に「金」と「勝利点」の2つの要素が含まれているとしよう。

  • A:3勝利点と5金を得る
  • B:6勝利点と2金を得る

この場合も共通する3勝利点と2金を両方から差し引いて比較できる:

  • A:3金を得る
  • B:3勝利点を得る

もしこのゲームが終了時に手持ちの金を1:1で勝利点に変換できるルールだったら、Aを選ばない理由は事実上消滅する。というのも両方からさらに3勝利点を差し引くと:

  • A:3勝利点を失い3金を得る
  • B:なし

という形になるからだ。Aで得た3金はそのまま使わなければ結局3勝利点として返って来るし、途中で他の目的のために使う事もできる。流動性が手に入る分だけこちらの方が明らかに得なのだ。

ゲームコミュニティはこの種の代数学を日夜研究している。「カードXの効果はカードYとZを合わせて更にダメージを追加したものに等しい」という具合にそれぞれの要素の選ぶ理由と選ばない理由を分解し、共通項を見つけて対消滅させる。そうして明らかに選ぶ必要のないエレメントや常に正しい選択を発見し、意思決定の余地をじわじわと削り取るのである。

 

対消滅耐性

なのでゲーム内の複数の選択肢、ないし選ぶ理由と選ばない理由はできるだけ複数の部分で異なっている事が望ましい。「ナショナルエコノミー」の建物は意図的にこれを組み込んでいる。このゲームには起動した時にカードを引ける建物がいくつかあるのだが、それらは次の様になっている。

  • 設計事務所(コスト1、評価額8):5枚めくって好きな1枚を引く
  • 工場(コスト2、評価額12):手札を2枚捨てて4枚引く
  • 製鉄所(コスト4、評価額20):3枚引く
  • 自動車工場(コスト5、評価額24):手札を3枚捨てて7枚引く

コストはそれを建設する際に捨てるカードの枚数、評価額は持っている事による得点の増加である。もちろんコストの重い建物の方が手札をたくさん増やせるが、「2枚引く」「3枚引く」「4枚引く」という具合の単純な上位種にはなっていない。

設計事務所は正味1枚しか増えないが、選択肢が多いため欲しいカードをピンポイントで引いて来る確率が高い。工場は正味2枚増えるが「原料」の手札が必要である。製鉄所は正味3枚増え、捨てるカードを持っていない時でも使えるが、欲しいカードを引いて来る確率は最も低い。自動車工場は正味4枚増えるが大量の原料が必要である。

これは要するに、プレイヤーがどの建物を作ろうかと悩んだ時に理由の対消滅をさせないためである。もし自動車工場が「4枚引く」という単純な製鉄所の上位種だったらどちらを建てるかの選択はあまり悩まないだろう。手札に製鉄所と自動車工場の両方があり、どちらでも建てられ、その後すぐに起動するつもりだとしよう。手札を4枚捨てて製鉄所を建てた後に3枚引こうと、5枚捨てて自動車工場を建てた後に4枚引こうと結局は同じだけの手札が残る。違いは後者の方がより強力で高価な建物を所有しているという点だけだ。

こういう事態を防ぐために建物の機能はできるだけ多くの点で異なる様にしている。どうしてもピンポイントで探し出したいカードがあれば製鉄所より設計事務所を起動する事を選ぶかもしれない。ルール制作者がどう足掻こうとプレイヤーは酵母菌のごとくゲームを消化分解するのだが、選択肢同士が複数の点で異なっている方が少しは耐性が付く。

 

上位互換?下位互換?

最後に「上位互換」の問題について触れておこう。ゲーム内に存在するエレメントが、他のエレメントより全ての点で同じか上回る場合、一方がもう一方の上位互換であると見なされる。モンスターAとBはどちらもコストが2で強さが3なのに、Aはそれに加えて追加ダメージを与える機能まで付いている!といった具合だ。

言うまでもなくゲーム内に上位互換があるのは望ましくないデザインだ。どちらを選ぶかの判断が機械的作業になってしまうからである。ただしこれまでの話を踏まえて言えば、本質的な問題は「強さが異なる事」でなく「強さ以外の部分が同じである事」だ。

ゲームバランスとは全ての選択肢をちょうど同じだけ魅力的にする事ではない。選択肢同士を比較する際に共通項を差し引いて機械的判断に還元できない様にする事である。

良いルールとはプレイヤーの意見が割れるものだ。AとBのどちらが強いかをコミュニティが議論した際に、「Aの方が強いだろう」と全会一致するのも、「AとBはちょうど同じだけの強さでどちらを選んでも変わらないだろう」と一致するのも同じくらい退屈である。Aが強いという一派とBが強いという一派に割れて実際の対戦で決着を付ける方が面白い。

 

ルールデザインの話(3)

ルールデザインの話(1)

ゲームのルールを作る際のあれこれ


ボードゲームのルール作りについて1冊本を書こう! と半年前に思い立ったものの着地点が定まらず一向に原稿が進む気配が無い。仕方ないので一旦本は諦めてブログ記事として散発的に発信し、反響があったら内容を拡充してまとめるという方針に切り替えた。第何回まで続くか全く不明だが気楽に読んで頂きたい。

 

ルールは最初に作る

最初の話題は「ゲームはどういう順番で作るか」という問題である。1つのゲームはルールやアートワークや図案や説明書や駒や箱やその他色々なエレメントが合わさって出来ている。どこから手をつけるべきだろうか?

ルールである。これは「場合による」とか「大抵の環境では」といった但し書き無しに、常にルールを最初に作るのが望ましい。理由は主に2つある。歩留まりと他工程への影響である。

第一に、ルールデザインは工程として見ると歩留まりが物凄く悪い。10個ぐらい遊べるゲームルールを作ると、「これは面白い!」というのが1つか2つ、「まあ悪くはないんじゃないかな」というのが3つか4つ、残りがカスである。これは他の工程に置き換えてみるととんでもなく高い不良品率だ。ゲーム用画像を依頼したアーティストが箸にも棒にも引っかからん落書きを10枚中5枚並べ、「何か問題でも?」という顔をしたら0.2秒後には右ストレートが鼻の頭に突き刺さっている。説明書の半分のページで日本語が破綻していたらライターは紆余曲折の末病院に送られる。10回試みて7回失敗したら「3回も成功してすごいな!」と褒められるのはルールデザイナーと野球の打者ぐらいのものだ。

第二に、ルールは他の部分への影響が大きい。ゲームというのはルールを中心に回っている物なので、何か変更を加えると他工程もそれに合わせる必要が出てくる。例えばモンスターを戦わせるゲームで、全てのモンスターを「機械系」と「八本足の軟体動物系」の2系統に分けたとしよう。機械系は電撃に弱く、八本足の軟体動物系はタコツボを見ると入ってしまうという具合にそれぞれルール上の挙動を定める。数十のモンスターを作り、アーティストがそれらのアートワークを制作した。ところがその後になって八本足の軟体動物系モンスター「明石丸」を機械系に変更したとすると、幸運にもタコにも機械にも見える宇宙的なデザインをしていない限りその絵は描き直しになる。

こういうわけで、他の仕事をしてからルールを変更すると二度手間三度手間が発生するし、他の部分を全て完成させた後でルールを作ってみたらあまり面白くなかったという場合「これまでの全ての労力を無駄にする」か「これまでの全ての労力に加えて生産コストを無駄にする」かという選択を迫られる。ほとんど疫病神だ。

従って理想的な工程順序は、まず遊べる形のルールを作り、面白ければ他の工程を始め、面白くなければ何も見なかった事にしてプロジェクトを打ち切るというものだ。これならたとえ失敗しても無駄骨を折るのはルールデザイナーだけで済む。というよりそもそも、面白いルールが出来上がった時点を以てプロジェクトの第一日とすべきである。その前の段階でアーティストに「俺さ、今すげえゲーム作ってるんだけど絵描いてみてくんない?」などと相談すべきではないのだ。

なお企画書は助けにならない。ストーリーを読む類の広義のゲームはともかく、ルールから面白さが生まれるゲームはまずプロトタイプが必要だ。企画や構想の段階では曖昧な部分が全て想像で補われているため非現実的に美しく見える。このあたりの仕組みは「構想の呪い」という記事で解説している。

 

ルールデザインの話(2)

翻訳記事:解析可能性

これは翻訳記事です

 

解析可能性

対戦型の戦略ゲームを作るには解析可能性と戦い続けなくてはならない。簡単に理解できる程度にシンプルに、かつ単一の正解を見つけていつもそれを使う事ができない程度には複雑なシステムを作らなくてはならない。

 

純粋解法 vs 混合解法

ゲームに「純粋戦略」による解法がある場合と「混合戦略」による解法がある場合ではだいぶ違いがある。何故かを理解するために、まずはこの2つを定義しよう。

純粋戦略とはゲームのプレイ方法を完全に定めるものだ。全ての起こりうる局面に対してプレイヤーが打つべき手をまとめた指南である。もし何らかの純粋戦略がゲームにおける最善の方法であれば、それは純粋な解法である。ゲームの純粋解法を知っていればもはや意思決定は実質的に残っておらず、ゲームですらなくなる。単純に純粋解法の指南する所に従うだけでよいのだから。

混合戦略とは純粋戦略をいくつか組み合わせてそれぞれに確率を割り振ったものだ。この場合の指南は「相手がXをしたらYをしなさい」という形でなく、「相手がXをしたら30%の確率でYを、70%の確率でZをしなさい」となる。混合戦略がゲームの最善手である場合、それを混合解法と呼ぼう。

ゲームに混合解法があるのは純粋解法があるのと同じぐらい悪いと思うだろう。結局プレイヤーは何も意思決定をしておらず、複数の選択からランダムに選んでいるだけなのだから。ところが違う。混合解法があってもプレイヤーは色々やる事がある。そこでそもそも「最適」な手とは何を意味するかを掘り下げてみよう。

 

最適な方法

いくつかの混合戦略がある時、その中で最適なものを混合解法と呼ぶ。これは「ナッシュ均衡点」とも呼ばれる。混乱の元になるのは「最適」という語が2つの事を意味するからだ。日常語と数学用語でそれぞれ定義が違う。この記事では「最適」を常に数学用語の方で使っており、日常語の「一番よい方法」という意味ではない。数学用語での最適とは「最も相手に利用されにくい方法」である。

相手に利用されやすい方法とは何だろうか。例えばじゃんけんで100%グーだけを出していたら、それは非常に利用されやすい。相手は傾向に気付いてパーだけを100%出すようになる。相手はこちらの戦略を完全に利用し、こちらの勝率は0%に下がる。もしグーを出す確率を80%にしたら(そしてパーとチョキが10%ずつ)、それでもやはり悪いのだが先ほどよりはマシになる。相手は相変わらずパーを100%出せるがこちらの勝率は0%から10%に増える。

最も利用されにくい方法を採るならば全ての手を33%ずつの確率で出すべきだ。こうすれば相手はどういう戦略を取ろうとこちらを上回れない。これがじゃんけんの混合解法である。

 

最適は「最高」ではない

最適な方法は素晴らしく見えるだろうが、大会で優勝するのが目標ならばそれではやって行けない。例えばじゃんけんの大会に出場したとしよう。対戦相手はグーを100%出すという評判で、実際にそれをやって来た。ここで最適な方法を採るとそれぞれの手を33%ずつの確率で出す事になり、33%の確率で負けてしまう。一方別のプレイヤーはこの相手に100%パーをぶつける。「最適な」はずの方法はこれよりも負ける確率がずっと高く、早々に敗退してしまう。

最適な方法を採るという事は目の前にある利用可能な優位を捨て去るという事だ。相手が非常に利用しやすい戦略を用いているのにつけ込まないという事だ。大会での優勝を目指すにはお粗末なプレイングと言わざるを得ない。もちろんこれは極端な例だが、相手がグーを出す確率が40%や35%であっても同様の議論は成り立つ。

ではグー100%の相手にパー100%を数ラウンドにわたって繰り出し、その後相手が戦略を変えてきたらどうなるか?  今度は相手がこちらの戦略を利用するという事もあり得る。というのも、こちらも最適戦略から乖離しているからだ。なのだが、それでも最適から外れるというのはやる価値のある事である。相手が戦略を変えて対応して来るのが心配であれば、パー33%をいきなりパー100%にしてしまう必要はない。40%かそこらでも33%の場合よりは試合に勝てる確率が高いし、自分自身もそれほど脆弱ではなくなる。更に相手は a)こちらの戦略を観察し最適からの乖離を見つける b)それに対抗する戦略を正しく採用する の2点がどれほど得意だろうか? こちらの方が得意であるなら迷いなく相手の戦略を利用すべきだ。相手がゆっくり戦略を修正する間にこちらは素早く修正できるのだから。

 

ドンキースペース

ドンキースペースというのはフランク・ランツ氏の造語で、非最適なプレイングの概念的空間を表す。上の項で述べたように、優れたプレイヤーはドンキースペースにいる相手を利用するためにわざとドンキースペースに入る事がある。言い換えれば、自分も相手に利用されうる戦略を採用する。もし双方とも優れたプレイヤーであればドンキースペース内の様々な場所を踊りまわり、優位を求めて駆け引きをするだろう。

全体像をもう少し明らかにしておこう。上級者同士の戦いでは全員が最適なプレイをするのでドンキースペースで踊る余地など無いと思うかも知れないが、実際のゲームではそれはだいぶ非現実的だ。そもそも上級者でも最適から大きく外れている事はよくある。それに対戦相手の(全員ですらなく)誰か1人でも最適なプレイングやそれに近いことをしているというのは稀だ。優れた対戦ゲームでは最適な戦略を知るのは非常に難しい。もちろん大まかな指針はあるにせよ、特定の局面でどの選択肢をどれだけの確率で繰り出すべきかを完璧に把握するのは無理だ。あまりにも変数が多すぎる。人気があり非常に研究されたゲーム、例えばポーカーであっても、最適な戦略はまだ完璧には解明されておらず、プレイヤーは最適からかなり乖離している。ましてパンダンテやYomiではポーカー以上に難しいだろう。

重要なのは、他のプレイヤーが最適から外れていたら、たとえ自分が最適な戦略を知っていて混合解法を完璧に執行できるとしても、勝率を最大化するにはなお相手のプレイスタイルを観察してそれに合わせる必要があるという事だ。

そして混合解法を執行するのは他にも色々と困難な要素がある。たとえその解法が何かを知っていてもだ:

  1. 人間はランダムに何かをするのがとても苦手だ。だから例えば特定の選択肢を42.3%の確率で選ぶというのは非常に難しい。
  2. そしてランダムに選ぶ事に失敗すると、本人も気付かない癖がパターンとなって表れる。対戦相手はそれを見つけて利用できる。
  3. 安全な道を行くかリスクを取るかの決断で人間はどうしても性格が出てしまう。
  4. リアルタイムのゲームであれば、タイミングや操作精度(難しいコンボを出したり狙撃をしたり)の面で数学的最適に達しているプレイヤーは1人もいないだろう。

2番は特に面白い。レヴィツキ(1997, 1998)によれば、人間は自分でも気付かないままにパターンを学習できる。それが何であるかを説明したり表現する事はできないが、それでも学習しているのだ。被験者は円を4つに区切ったそれぞれのエリアに数字が書かれたものを見せられ、特定の数字を含んでいるのはどれかボタンを押して答えた。被験者はテストを繰り返した。ただし、数字の場所がランダムでなく実は法則があるという事は伏せたままだ。配置には10の込み入ったルールがあった。テストが進めば進むほど反応速度は良くなり、かつパターンの存在には気付かないままだった。パターンを説明できれば100ドルあげますと言っても誰一人できなかった。しかも、配置パターンをこっそりランダムに変えてみたところ被験者の成績はすぐさま大幅に下がった。特に面白い事に、レヴィツキの同僚で実験内容を知っている心理学教授ですら、それらの配置パターンは「ランダム」だったと言い張ったのだ。人はパターンを学んで利用しつつ、パターンなど存在しないと思ってしまうのだ。

論点はこうだ。人は無意識に混合戦略を不完全に執行してしまう。そして自分でも気付かないままパターンにはまっている。対戦相手は自分でも気付かないままそれを発見して利用できる。混合戦略ゲームにおけるドンキースペース内のダンスとは、表層意識同士に加えて無意識同士の戦いでもある。そして前者においては何が最適であるかについてそもそも意見が異なっているのだ。

 

純粋解法は混合解法よりもゲームを早く腐らせる

よって、たとえゲームに混合解法があったとしても、対戦相手が何をやっているかには細心の注意を払わなくてはならない。相手が最適からどれだけ離れているかを検知しその戦略に対抗するのだ。これは非常に難しい。何しろ無意識を働かせてパターンを読み取るわけだから。

純粋解法のあるゲームでは相手が何をしているかに注意する必要は全くない。その解法を知っていれば相手が何をする傾向を持っていてどんな考えを抱いているかは全く関係ない。単に最適な道を辿れば良いだけであって、実質的なゲームプレイはもう残されていない。

もうひとつ重要なのは、混合解法と純粋解法のあるゲームがそれぞれどんな風に見えるかだ。両者ともプレイヤー達はまだ解法を見つけていないがそれに近づいているとしよう。どちらのゲームも時間が経つにつれてどんどん解析される。最適なプレイングに次第に近づいてゆく。純粋解法のあるゲームの場合、プレイングの技巧とはつまるところ定石の暗記になり対戦相手とは関係なくなる。例えばチェスの終盤、メイトまでの道筋が解明された局面などがそうだ(ちなみにチェス2では中央突破ルールがあるのでこの種の局面が発生しない様になっている)。チェスの序盤も似た様なものだ(これまたチェス2では違うが)。年月が経ちチェスの解明が進むにつれ、オープニングの教本は進歩し、それら定石を覚えて不利な中盤戦を迎えない様にするのが重要になって行った。

一方、混合解法へと近づいているゲーム、例えばポーカーとかパンダンテとかYomiでは、単なる定石の記憶に集約される事はない。対戦相手を観察して反応するのは相変わらず重要だ。そしてついに完全な混合解法の解明に至ったとしても(Yomiでは我々が生きている間には無理だろうが)、なお全てのプレイヤーがドンキースペース内にいる。上級プレイヤー達も全ての局面で全く混合解法通りにプレイできているわけではない。誰もが何らかの点でドンキースペースにおり、誰がどのぐらいの位置にいるかそれぞれ意見が分かれる。対戦はある意味でその論争を決着させる手段である。「この局面では42%の確率でガードすべきだろう」とある人が言い、別の人が60%だと主張する。そして対戦相手の「間違った」近似解を利用しようとする。そもそもそれを見つけられればの話だが。

ゲームデザインの観点から言えば、混合戦略型のゲームは解析可能性との戦いで本質的に有利である。たとえ解法が見つかっても面白いままでいる様にゲームを作るのは、最終的に定石の暗記だけで何も意思決定をしなくなる作り方よりもだいぶ安全なのだ。

 

純粋解法ゲーム制作 vs 混合解法ゲーム制作

先に説明した様に、純粋解法を持つゲームを作るのはいささか危険である。もちろん十分にゲームが奥深ければ、解法が見つかるまでには相当な時間がかかる。チェスや囲碁は何世紀も遊ばれているが完全な解法は見つかっていない。だが一方、純粋解法のあるゲームを作るという事はそういった古典と同様の耐久力が求められるという事でもある。例えばチェッカーは既に解法が見つけられてしまった。更にたとえチェスと同じくらい深いゲームを作ったとしても、そもそもチェス自体が定石の進歩とともに記憶のゲームと化している。対戦ゲームにとってはいささか不幸な運命と言わざるを得ない。

更に皮肉なのはこうだ。完全情報ゲーム(決断を下す全ての瞬間においてゲーム内の全ての情報が明らかになっている)でランダム性も無いというと「実力主義」に聞こえるだろう。もし実力の出るゲームが好きならば良さそうに見える。しかし実際は、これによってゲームに純粋解法が生まれる事を保障してしまい、ゲームの実力(その場の判断)よりも定石の記憶が最後にはずっと重要になる。不確定要素や、隠れた情報や、ランダム性が入っている方が実はずっと実力が出やすいのだ。

ゆえにゲームデザインでは、そうした不確定要素なり隠れた情報なりランダム性なりを採用する事をお勧めする。ランダム性というのはある種不名誉な烙印を押されているが、純粋解法によって解決されてしまうのを防ぐには有効な道具である。

 

KONGAI

私の作ったKongaiというゲームはその例だ。プレイヤーはターンごとに2つの決断を行い、そのどちらもダブルブラインドである。つまり相手も同時にその決断をして同時に公開する。これは解析可能性との戦いをずいぶん助けてくれる(完全情報ゲームでなくなる)し、そもそもこのゲームは何らかの隠れた要素が無いと非常に解決しやすくなってしまう。またポケモン(Kongaiの元になったゲーム)の様に命中率や追加効果発動率という形でランダム性を入れる事でも解析可能性に対抗している。こうした命中率のおかげで数手先を読むには非常に大きな可能性の分岐技を計算しなくてはならなくなったのだ。

Kongaiプレイヤーの中には最適解を計算するのが好きな人もいるが、その場合はまず単純な状況から始めなくてはいけない。特定のキャラクターの組み合わせ同士で、特定のアイテムを装備し、それぞれ最後の1人まで追い詰められて交代や横入りができず、HPも残り僅かという状況だ。この小さな局面ですら数十ページにわたる分析でようやく正しいプレイングが計算できるのである。ゲーム全体に同じ計算を適用するのはほとんど不可能だろう。

 

結論

対戦ゲームはできるだけ解析不可能でありつつ、同時にプレイヤーに理解可能でなくてはいけない。純粋解法のあるゲームは実力主義に見えるが、時間が経つにつれて単なる定石の暗記へと縮小していく。ところが混合解法のあるゲームはずっと長い期間にわたって戦略的な面白みを維持する。

混合戦略型のゲームを作るには不確定要素や隠れた情報やランダム性を入れる事だ。ターン制でなくリアルタイムであればこの点では有利だろう。

 

原文:http://www.sirlin.net/articles/solvability

Hearthstoneの戦い方(5)

CCG “Hearthstone” に関して気づいた事をその都度記録。


Hearthstoneの戦い方(4)

 

デッキの生態学

このゲームにはデッキやクラス間の相性がそれなりにある。例えばプリーストは敵の手下を始末したり洗脳するのが得意なので、ハンターやシャーマンなど手下を並べて戦うデッキにはかなり有利である。その一方、敵が殴り合いに付き合ってくれないと機能しないカードが多く、ウォリアーなど手下にあまり頼らないデッキは苦手だ。

全てに強いデッキは存在せず、誰もがそれなりに弱点を抱えている。そしてひとつのデッキタイプが興盛を極めるとそれに対抗するデッキタイプの割合がじわじわと増え、一方それを苦手とするデッキは徐々に減る……という食物連鎖の様な仕組みでプレイヤー全体の生態系がバランスを保っている。

なのだが、この生態は実は全体に一様ではなく、強さの階級ごとにある程度層構造を成している様に思われる。

 

ランク制

このゲームのランクマッチは塔を登る様な仕組みになっている。 最初は最下層の「25」から始まり、勝つと星が増え、負けると星が減る。星が一定数溜まるとひとつ上の「24」に行ける。これを繰り返して最終的に「1」やその上の「レジェンド」に行くのが目標である。ランクは月ごとにリセットされるのでその都度登らなくてはならない。

基本的に対戦相手は同じか近いランクから選ばれるので、階層を上がるためには「同じ層にいるプレイヤーに勝ち越す」必要がある。あたかも各階の番人を倒して進む冒険の様なものだ。

このメカニクスの帰結として次の様な現象が生ずる。例えばある階層でハンターが大流行したとしよう。するとその階層ではプリーストは非常に有利であり、技量が同等なら相性のお陰で簡単に勝ち越せるだろう。すると勝ち越したことの帰結としてプリースト使い達はその上の階層に行く。一方ハンター使い達はそれほど極端には勝ち越せないので、すぐ上の階層ではやや分布割合が減る。

この結果、ある階層ではハンターが多く、そのすぐ上の階層ではそれに強いプリーストが多いという風にランクごとに異なったデッキ生態分布を見せることがある。そしてそのプリースト階ではコントロールウォリアーが有利であり、すぐ上にウォリアー階が形成される可能性もあるわけだ。

プレイヤープール全体ではデッキの分布はバランスが保たれる。しかし「勝ち越したら上に行く」「同じランクで対戦する」というランクシステムの関係上、階層ごとの分布は必ずしも一様ではなくなる。

 

複数のデッキを使い分ける

オールラウンド型のデッキであれば相性の問題はそこまで深刻ではない。しかし得意な相手と苦手な相手がはっきり分かれるデッキの場合、分布上の偏りが思わぬ壁となって立ちはだかる場合がある。例えば3回に1回はプリーストに当たり、3ターン目にはDeath Lordが出て来るとしたら手練のハンターでも勝ち越しはなかなか難しいだろう。本来もっと上の実力があってもそこで足踏みをしてしまうわけだ。

複数のデッキを用意しておくと存外あっさりとこの壁を越えてしまうことがある。私は2015年7月のシーズンでランク5までプリーストで上がり、そこからコントロールデッキと当たる回数が増えて徐々に辛くなった。そこで今度はウォリアーを使ってランク2まで上がり、そこで再びアグロ系デッキが増えたのでプリーストに切り替えてレジェンドへ進んだ。ランク2〜レジェンドの範囲はハンターやズーが非常に多く、試合開始と同時に勝っている様なマッチングに多数恵まれたのである。

ひとつのデッキを極めることで相性の差を覆せるというのも事実だが、いくつかの道具を使い分ければ楽ができるというのも事実である。当面の目標が階層を上がることなら戦術のひとつとして利用するのも悪くないだろう。

英語の話

ゲームを作っていると英語運用力が必要になる事が多い。英語のゲームを遊ぶ。英語で書かれたデザイン論やレビューを読む。海外から材料を仕入れる。通念に反し、中国の工場と交渉する際には中国語でなく英語を用いる。国際取引は大体そういうものだ。

他の全ての技能と同様、英語の運用も別に全ての人間ができる必要はない。やりたい者が能力を伸ばしてできない者の手助けをすれば宜しい。遠く隔たった言語の習得は資質の差が非常に大きい部分なので分担した方が得である。そういう訳で「じゃあ俺がチームの分の仕事を引き受けてやるか」と思う人向けに書いていこう。

 

言語間の距離

地球上には数千の言語が存在する。およそ6000ぐらいだろうと推定されているが、途轍もない奥地の少数民族語が発見されたり話者がいなくなって絶滅したり混ざり合って新種が生まれたりするので正確な数は誰も知らない。

言語と言語には類縁関係がある。例えばポルトガル語とスペイン語とフランス語とイタリア語はどれも元々ラテン語から派生したもので共通点が多い。琉球語は奈良時代に日本語から分化したと考えられており、構造そのものは同じである。一方アイヌ語は日本語とは別系統の言語であってあまり共通点がない。

これの何が問題かと言うと、日本語と英語は非常に隔たった言語で相互に習得が難しいという事だ。少なくとも日本語話者が韓国語を学んだり英語話者がオランダ語を学ぶ場合よりはるかに多くの労力を要する。既に知っている言語と共通部分の無い言語を新たに習得するには、大まかな目安として2500時間みっちり勉強せねばならん。はっきり言って「労働時間」として勘定すると全く割に合わんのだ。私が英語や中国語やエスペラント語を随分やったのは単に好きだからであり、勘定科目としては「遊び」に入っている。

言語習得を巡る言説の混乱はしばしば言語間の距離を見落としているためである。韓国人の日本語が上手いのは近い言語だからであり、日本人の英語が下手なのは遠い言語だからである。別に熱意や社会環境の専一な帰結ではない。

 

最初の足がかり

遠い言語を習得する際に重要なのが文法である。第二言語が「ちょっと分かる」人が「ちゃんと分かる」へ進めない最大の理由はここだ。文章の構造を理解せずに分かる単語を拾い出して意味を想像で繋いでいると、複雑な話が始まった途端に頭が爆発四散する。例を挙げよう:

 

Subjects can no longer declare war with their own subjects’ wargoals.

(属国はそのまた属国の戦争目標を使って宣戦布告できなくなった)

 

これはEuropa Universalis 4のパッチ情報である。意味は要するにこうだ。このゲームでは戦争を始めるのに口実が要る。例えばその土地は本来我々の物だった、と言って取り返す為の戦争を仕掛けるのだ。また属国を持っていれば属国の口実を利用して宗主国が戦争を始めることもできる。その土地は本来うちの属国の物だったから返してやれ! という具合だ。

またこのゲームでは「属国の属国」が生まれることがある。ピラミッド構造だ。その場合に、子属国が孫属国の口実を利用して戦争を始める事が今まではできたがこれからはできなくなったという話なのだ。

文章構造としては何もおかしな所は無い。しかし”Subjects” “subjects’ wargoals” といった部分部分を抜き出して意味を想像していると「属国が属国の口実で戦争できない」、つまり属国は自分自身の口実を使えないという風に誤読してしまう。

これが大体の人の躓く点なのだ。簡単な文章は読めても込み入った物を理解できない。そこからどう上達すればいいかも分からない。文法構造という基礎を理解していないためである。およそ学問や技芸は分からない部分を放置したまま先へ進むと理解不能な範囲が雪だるま式に膨れ上がって爆散するものだ。

 

動詞を探す

日本語の文章を理解するにはまず述語を探し、他の成分との修飾関係を明らかにする。例えば「朝から米を炊いた」であれば

 

炊いた (述語)

米を炊いた (目的語+述語)

朝から米を炊いた (補語+目的語+述語)

 

という風に述語を核にして1語ずつ理解する。これは私が読み語りの先生から教わった事であるが、英語や中国語にも応用可能なので日本語だけの性質ではないのだろうと思う。例えば “Deal 2 damage to a minion.”という英文であれば

 

Deal (与える)

Deal damage (ダメージを与える)

Deal 2 damage (2のダメージを与える)

Deal 2 damage to a minion (手下1体に2のダメージを与える)

 

という具合に少しずつ語を加えるのだ。Dealは動詞、damageは目的語、2は目的語の数詞でa minionは関節目的語、toは前置詞である。

 

前頁の文章でも実演してみよう:

declare (宣言する)

can declare (宣言できる)

can declare war (宣戦布告できる)

Subjects can declare war (属国は宣戦布告できる)

Subjects can no longer declare war (属国はもはや宣戦布告できない)

Subjects can no longer declare war with wargoals (属国はもはや戦争目標を使って宣戦布告できない)

Subjects can no longer declare war with subjects’ wargoals (属国はもはや属国の戦争目標を使って宣戦布告できない)

Subjects can no longer declare war with their own subjects’ wargoals (属国はもはや彼ら自身の属国の戦争目標を使って宣戦布告できない)

subjects

 

肝は係りの関係である。文章中の全ての語は最終的に述語に情報を加える。例えば ”Subjects” は「誰がそれをするか」という情報を “can declare” に追加している。 後半の ”subjects’” は “wargoals” を修飾してそれが誰の物かを示し、wargoalsは「何を使ってそれを行うか」という情報を動詞に加えるものだ。

 

リスニング

聞き取りが苦手だと称する人は多い。スクリプトを目で見れば理解できるが同じ内容を耳から聞いても理解できない。そうすると耳の側に何らかの問題があると考え始めるものだが、実はそれは間違いである。

人間はそもそも正確に言語を発話していないし正確に聞き取ってもいない。音声認識プログラムの様に聞いた音の波形を音素に分解して並べ、単語を構成してテキストを作って読み取る……という仕組みにはなっていない。そうでなく、前後の文脈から先を予想したり空白を頭の中で補完しながら話を聞いているのである。

あるイギリスの大学教授がこんな実験をした。講義の最中に “map” (地図)という語を全て “nap” (昼寝)に置き換えて発話してみたのだ。果たして学生は誰一人それに気づかず “map” と聞き取っていた。napと聞き取ってmapの間違いだろうと想像したのではなく、そもそもnapと言っていた事自体に気づかなかったのだ。

人間は文脈に基づいて次にどんな言葉が来るかを予想する。「あのーすいません、小林ですけど」と言われたら、「すいません」の時点で次は名前か用件だろうと察する。また社会的関係から下の名でなく姓を名乗ると合理的に予見する。そうすると小林とか山田とか斎藤といった日本人の姓が「次に聞くであろう言葉」の集合を形成するので、実際に聞き取った音に最も近い物を選ぶわけだ。

このせいで外国名や珍しい苗字は常に電話口で聞き返される。「菱田ですけど」と言うと「岸田様ですか?」と返ってくるのだ。もちろんこれは初回の事であって、一旦その名で予約を入れてしまえば菱田と聞き取ってもらえる。顧客の名前は「聞きそうな言葉リスト」の上位に入るからだ。

外国語を聞き取れないのは耳が悪いからではないし音素を弁別する能力が足りないせいばかりでもない。話の中身を十分に理解しておらず、次に何が来るか予見できないからだ。ゆえに適切な文脈が外部から与えられると非常に簡単になる場合が多い。例えばあなたが中国語を全く解さないとして、中国の飲食店で注文を聞く係を担当する羽目になったら途方に暮れるだろう。しかしその店に麻婆豆腐(マーポードウフ)と卵炒め(チャオタン)しかメニューがなく、すべての客がぶっきらぼうにどちらかの料理名を叫ぶ以外に一切の発話をしないとしたら数分で完璧にこなせるようになるのではないか? 音素を精密に聞き取る必要が全く無く、2つの音声パターンのどちらに近いかだけを判断すればよいわけだから。

音声言語の聞き取りは多かれ少なかれこういう仕組みになっている。自分が何についての話を聞いていて、次にどんな内容が展開されるかを理解していないと第一言語ですらまともに聞き取れない場合がある。無文脈な固有名詞は特にそうだ。人間は音を聞き取って理解するのでなく、理解する事で音を聞き取るのである。

 

教材

学習教材を推薦する場合は常にEnglishClubというwebサイトを提示している。全て平易な英語で書かれており文法の基礎から順に並んでいる。日本語で手に入る教材はあまり質が良くない。手っ取り早く何かを習得しようとすると大体基礎が貧弱で後になって困る。

受験英語は果たして北米で話されているのと同じ言語であるか疑わしい。むしろこれは日本語話者が英文を機械的に和文に置き換えて理解する技術であって、中国語に対する漢文の関係に近いと思う。 “I’m fine, thank you” と応答する自動機械は多言語話者ではない。

#37 ナショナルエコノミー

国民経済をテーマにしたワーカープレイスメントゲーム


プレイ人数:1〜4

プレイ時間:30〜45分

 

内容物

  • ラウンド・共有建物カード
  • 建物カード
  • 消費財カード
  • 労働者カード
  • 未払い給料罰符
  • スタートプレイヤーマーカー

 

2〜4人ゲーム

ゲームの流れ

プレイヤーはそれぞれ労働者を何人か持っている。手番ごとに1人ずつ労働者を職場に配置して働かせる。全員が全ての労働者を配置し終えたらラウンド終了。9ラウンド終了後に最も総資産の多いプレイヤーが勝ち。

 

ゲーム内の空間

  • 山札:裏向きにした建物カードの山。切れたら捨て札を切り直す。
  • 捨て札置き場:全員の捨て札が表向きで置かれる。
  • 消費財山:消費財カードの山。捨てた消費財はここに戻る。
  • ラウンドカード山:各ラウンドの給料を表示するカードの山。
  • サプライ:金と罰符と労働者カードの置き場。
  • 家計:共通の公開空間。プレイヤー全員の支払った給料がここに溜まる。店で物を売るとここから金を取る。
  • 財布:各プレイヤーの手持ちの金。公開情報。
  • 労働者置き場:各プレイヤーが雇った労働者を並べる。公開情報。
  • 手札:各プレイヤーの手札。ラウンド終了時に5枚まで減らす。
  • 個人建物置き場:各プレイヤーが自分で作った建物を置く。そのプレイヤーだけがアクセスできる。
  • 共有建物置き場:共有建物およびプレイヤーが売り払った建物が置かれる。誰でもアクセスできる。

 

ゲームの準備

  • 「採石場」「中学校」「鉱山」各1枚と「大工」を(人数-1)枚共有建物置き場に並べる。
  • ラウンドカード1〜9を1が上になる様に順番通りに重ねて山を作る。
  • 建物カードをよく切って3枚ずつ配り、残りは山にして置く。
  • 消費財カードを全て集め山を置く。
  • 公平な方法で席順と最初のスタートプレイヤーを決め、マーカーを置く。
  • スタートプレイヤーは$5、次のプレイヤーは$6、その次は$7、その次は$8をサプライから受け取る。
  • 各プレイヤーの色を決め、対応する色の労働者カードを2枚ずつ配る。

 

ラウンドの進め方

  • スタートプレイヤーから順に時計回りで手番を行う。
  • 手番が来たら自分の労働者を1人共有または個人の職場に置く。
    • すぐに職場の効果を解決する。
    • 「何人でも使える」職場を除き、既に労働者が置かれている職場はそのラウンド中は使えない。
  • 全員が全ての労働者を置いたらラウンド終了。
  • 全ての労働者を労働者置き場に戻す。
  • 各プレイヤーは労働者1人ごとにそのラウンドの給料を払う。
    • 支払った給料は家計に入る。
    • 手持ちの現金が足りない時は建物を売らなくてはいけない(後述)。
    • 全ての売却可能な建物を処分しても足りない場合は不足額$1につき1枚の罰符を受け取る。
  • 手札が5枚を超えているプレイヤーは5枚になるまで選んで捨てる。
  • 一番上のラウンドカードを裏返して共有建物置き場に並べる(裏面が職場になっている)。

 

建物の売却

  • 「売却不可」以外の全ての建物は給料を払う際に売り払って現金にできる。
  • 売った建物は共有建物置き場に移る。
  • サプライから評価額に等しいだけの現金を受け取る。
    • これはゲーム内に存在する金を増やす唯一の方法である!
  • どの建物を売るかは自由に選べる。

 

カードの売却

  • 「露店」「市場」「スーパーマーケット」「百貨店」「万博」「酒場」「レストラン」は手札を捨てる代わりに家計から金を得る。
  • 家計に十分な金が存在しなければその職場を使うことはできない。
    • 例えば家計に$5しか無ければ露店は使えない。

 

建設

  • 建物を作る場合、手札から建物カードを自分の個人建物置き場に出し、更にコストと同じ枚数だけ手札を選んで捨てる。

 

消費財

  • 消費財カードは建物カードと同じ様に手札に入るが、コストとして捨てる為だけに使える。
  • 捨てた消費財は再び消費財山に戻る。建物カードの捨て札とは混ざらない。

 

職場

  • カードを捨てる効果のある職場は十分な手札が無ければ使えない。
  • 鍵アイコンの付いた建物は常在型の効果。職場ではないので労働者を置けない。

 

労働者

  • 新たに雇った労働者は裏返しで「寝ている」面を上にしておく。そのラウンド中はまだ働けない。
    • 給料は一人前に要求する。
    • 次のラウンドになったら表に返す。
  • 労働者の上限は5人。ただし「社宅」を建てればもっと増やせる。

 

1人用ルール

ゲームの準備

  • 共有建物置き場に「工場」「学校」「大工」「鉱山」を並べる。
    • 工場が最も新しい順番になる(後述)。
  • プレイヤーに手札3枚・$5・労働者2人を配る。
  • ラウンドカード・消費財・山札を準備する。

 

相違点

  • 共有建物置き場には順番がある。後から追加された建物ほど「新しい」扱いになる。
  • プレイヤーが労働者を1人置く度に、まだ塞がれていない最も新しい共有建物置き場の職場が塞がれる。
    • プレイヤーと違う色の労働者を置いてその事を表す。
    • ラウンドが終わったらプレイヤーの労働者とともに除かれる。
  • 建物は1種類につき1つしか共有建物置き場に並べられない。つまり既にある建物を売って現金にすることができない
  • 各ラウンドの終わりには税金を払う。
    • 税金はサプライへ行く。
  • 税金または給料を払えなくなったらゲームオーバー。
  • 最終ラウンドの後に残った資産=得点を競う。

 

1人用ルール案2

  • 工場でなく農場が最初に存在する
  • 同じ建物をいくつでも売れる
  • 建物の買取額は評価額の半分
  • 税金は存在しない
  • 最後に100点以上あればクリア!

 

カード

(名前は仮のものです)

共有建物カード

 

採石場

カードを1枚引く。スタートプレイヤーを得る。

 

鉱山

カードを1枚引く。何人でも入れる。

 

大工

建物を1つ作る。

 

学校

労働者を1人増やす。

 

露店

手札を1枚捨てて家計から6金を得る。3〜4人プレイでは何人でも入れる。

 

市場

手札を2枚捨てて家計から12金を得る。3〜4人プレイでは何人でも入れる。

 

スーパーマーケット

手札を3枚捨てて家計から18金を得る。3〜4人プレイでは何人でも入れる。

 

百貨店

手札を4枚捨てて家計から24金を得る。3〜4人プレイでは何人でも入れる。

 

万博

手札を5枚捨てて家計から30金を得る。3〜4人プレイでは何人でも入れる。

 

高等学校

労働者を4人に増やす。

 

大学

労働者を5人に増やす。

 

専門学校

労働者を1人増やす。このラウンドからすぐに働ける。

 

 

建物カード

 

農場

消費財を2枚引く。

 

大農園

消費財を3枚引く。

 

果樹園

手札が4枚になるまで消費財を引く。

 

焼畑

消費財を5枚引く。焼畑は消滅する。

 

開拓民

消費財を引く建物を1つ無料で作る。

 

建設会社

建物を1つ作る。コストが1安くなる。

 

ゼネコン

建物を1つ作る。その後カードを2枚引く。

 

二胡市建設

同じコストの建物を2つ作る。1つ分のコストだけを支払う。

 

設計事務所

カードを5枚めくり1枚を引く。

 

工場

手札を2枚捨てて4枚引く。

 

製鉄所

カードを3枚引く。

 

化学工場

カードを2枚引く。手札が空であれば4枚引く。

 

自動車工場

手札を3枚捨てて7枚引く。

 

酒場

家計から5金を得る。

 

レストラン

手札を1枚捨てて家計から15金を得る。

 

倉庫

手札上限+4。売却不可。

 

社宅

労働者数上限+1。売却不可。

 

ヤクザ

終了時:未払い賃金1枚につき-1点で済む。売却不可。

 

不動産屋

終了時:所有する建物1つにつき+3点。売却不可。

 

農協

終了時:手札の消費財1枚につき+3点。売却不可。

 

労働組合

終了時:労働者1人につき+6点。売却不可。

 

鉄道

終了時:工業系1つにつき+8点。売却不可。

 

本社ビル

終了時:パッシブ系1つにつき+6点。売却不可。

 

銅像

得点のみ。売却不可。

 

 


元々2013年に最初のプロトタイプを作ったものの、派生作のウォータイムエコノミーが先に完成し現在まで放置されていた。

マゴス 説明書訂正

15ページ 煉獄火

誤:

「ダイスを 2 個置く。うち 1 個の目の数だけ 自分のライフを減らし、その後もう 1 個の目だけダメージを与える」

 

正:

「ダイスを 2 個置く。うち 1 個の目の数だけ 自分のライフを減らし、その後もう 1 個の目だけダメージを与える。 直ちにターンを終える」