ナショナルエコノミー テーマデザインノート

ゲーム内の要素は何を表しているか


ナショナルエコノミーは元々マクロ経済シミュレータとしてプロトタイプを組み、冗長な要素を削ぎ落としてゲームに落とし込んだ製品である。つまり削られる前の「リアル」な状態があったわけで、そこでは現実の経済とゲーム内要素が一対一対応していた。

もちろんゲームは教材でもシミュレータでもない。そしてデザイナーはゲームの物語についての最終決定権がない。プレイヤーが「これはこういう世界なんだ!」と感じた意味こそが最終稿であり、デザイナーの考えた物語は発表した瞬間に脇に追いやられる。あらゆる分野のあらゆる作品がそうだ。「作者の伝えたかったこと」とか「作品の意味」など存在しない。

それでも一応気になる人のために読み物としてテーマ的説明を書いておく。

 

手札

これは物理的実体を持った「財」、早く言えば在庫を表す。原料、機械、一般消費者向け製品、燃料、食料、部品など資本として固定されていない実物資産全てである。在庫は場所を取るし経年劣化する。だから手札には上限がある。というか上限を付けるのがゲーム文法において自然になるからカードで表している。

販売

手札を捨てて家計から金を取る行為は財を消費に充てる事に相当する。Y=C+IのC部分である。店に派遣された従業員は販売員として商品の流通を担う。家計が潤沢にあるほど百貨店など高度な職場を起動できるのはインフレーションを表す。逆に家計が枯れると効率の低い職場しか起動できないのはデフレーションである。

建設

手札を捨てて建物を作る行為は財を固定資本として投資する事を表す。Y=C+IのIである。

売却

建物の売却はもともと借入であった。実物資産を担保に銀行から金を借りる事で信用創造が行われ、流通する貨幣量が増加するという表現である。サプライから金を供給しているのは政府でも外国人でもなく銀行である。ゲームでこれをやると何もかも面倒なのでただ売る仕組みになった。

家計

「家計金融資産」などに見られる集合的家産の意味である。労働者など国民総体が持っている金だ。当初は消費性向の概念があり全てが消費には回らなかったが面倒なので全て簡略化した。

政府

当初のプロトタイプでは政府が存在しケインジアン政策とか課税を通じて経済を左右できた。面倒なので退場。

外国

当初は貿易の概念があり、投資だけでなく純輸出によって流通貨幣を増やすことができた。家計の取り合いというゲームバランスが壊れるので退場。結果ゲームではY=C+I+G+NXのうち最後の2項が排除され鎖国下の民間経済と化した。

貨幣

貴金属に裏打ちされない信用通貨である。だから担保になる実物資産さえあれば無限に発行される。舞台が20世紀なのはこの辺りの都合による。なお続編で時代設定は忘れ去られた模様。

労働者

国内総体での人口が変動したり、失業者がいたり、市場環境によって賃金が変動したり、解雇によって不況が深刻化したりと動的な振る舞いをする連中だったが全て簡略化。これはゲームだ。誰が何を言おうとただのゲームなんだ。

賃金

元々は動的な賃金水準変動システムを持っていた。生産性の向上によって労働者1人あたりの事業者利益が増え、労働需要が高まり、供給逼迫から賃上げに繋がる…という流れだったが面倒なので全部ラウンドごとに固定。どうせゲームが進めば経済は膨らむのだ。

消費財

バナナは元は存在せず全てが「財」だった。完全にゲーム上の都合で導入している。財を2個生み出す「農場」と、財を2個捨てて4個生み出す「工場」の役割分担が必要になったためである。

勝利点トークン

完全なるゲーム要素。何を表しているかよく分からない。最初は強力な効果がある代わりに負債トークンが発生する建物をデザインしたがバランスが悪く、反転させて効果が控えめな代わりに勝利点トークンが発生する建物にした。ゲーム内要素は複数の獲得手段と複数の使途があると勝手に面白くなるので大聖堂の建設に参照される。

 

[ ・p・]<機械人形は何を表してるんですか? (・ε・;)

ナショナルエコノミー・グローリー デザインノート

派手でバランスの取れたゲームを作る


ゲームはボトムアップで作る場合とトップダウンで作る場合がある。ボトムアップは「こういう動きが面白い」「こういうルールが面白い」という中核部分が先に出来てそこから製品としての体裁を計算する作り方である。トップダウンはまず「冒険要素のあるデッキ構築ゲームを作ろう」とか「このシリーズの次を作ろう」とか製品の構想があり、枠の中に仕様を埋める作り方である。

グローリーは後者である。イラストレータに仕事を供給するためにナショナルエコノミーの続編を作る事になり、カード枚数も箱の大きさも全て先に決まった状態からプロジェクトが始まっている。

この種のトップダウン方式のコツは最初に「掴み」を作る事だ。メセナの大聖堂の時もそうだが、パッと見てとんでもなく強かったり使いたくなる要素をねじ込み、その存在を正当化する様に逆算してバランスを組んだり他の要素を調整する。こうすると早い段階で自由変数を減らせるので制作に迷わない。コスト10のものが存在する環境に踏み倒しは存在してはならないとか、他の勝ち手段はそれに対抗できるぐらいのパワーが必要だとか、一箇所を決める事で自動的に他の仕様が限定されるのだ。

グローリーの掴みは機械人形である。こいつは4コストで作れる無料の労働力だ。労働者のおっさんと全く同じ機能を持つが維持費はかからん。研修も要らん。テスト版を見せた人々には「こいつは強すぎるだろ」という感想を毎回貰った。

インパクトはこれでよろしい。後はこいつに合わせてバランスを組むだけだ。生産力を労働力に変換できる以上、ドローソースはやや控え目にせねばならん。でないと無限に拡大再生産が行われて収拾がつかぬ。

そこで今回のレギュラーになったのが養鶏場である。手札が偶数なら2枚、奇数なら3枚の消費財を引く。前作の養殖場に近いがこちらは1回起動すると手札が偶数になるので生産力が極端には伸びない。併せて芋畑や果樹園の様な「一定枚数まで補充」の類は全て退場させ、お手軽ドローソースを根絶した。手軽なドローがそれ自体として悪いわけではないが、機械人形という受け皿と同じ環境に存在すると具合が悪いのだ。

ドローがただ減るだけだと地味なゲームになって楽しくない。また機械人形ルートに対抗する別の勝ち手段も要る。両方を一遍に解決する方策として、勝利点トークンを集めると建設コストが安くなるドロー施設を導入した。これはフレーバーとしては高度な技術を表している。技術研究に励んで少人数で効率的に生産するか、頭数を揃えて力で押すか。卓上で異なる戦略が競い合うとリプレイ性が高くなりやすい。

メセナにおける勝利点トークンはプレイヤーが作った建物からしか生まれなかった。このためゲーム展開によってはほとんど登場せず、序盤から参照するのが難しいというデザイン上の制約があった。グローリーでは最初の公共施設を追加して勝利点ソースを作る事でゲームの中核に持って来る事にした。

最後はテーマだ。ロボットがいて、高度な工場があって、技術を公共の空間から掘り出して来るのはどんな世界か? スチームパンクだ。上手く行くプロジェクトは全てが理路整然と嵌り迷いがない。かくて6週間で過去最高のナショナルエコノミーが組み上がった。

ナショナルエコノミー・グローリー

ナショナルエコノミー・グローリー

最新作がいつでも最高傑作。ナショナルエコノミーの続編だ!

メセナで好評だった勝利条件系建物をさらに発展させ、勝ち筋の多様化とバランス調整を押し進めたゲーマーのためのゲームである。無償の労働者である「機械人形」が出てきたり、勝利点トークン=技術力を集めると生産施設が安くなったりとスチームパンクならではのギミックも満載だ。

6/1発売。¥2,600+税。ゲームショップかAmazonかこにょっとで買えるぞ。春のゲームマーケットにも持って行こうとしているが間に合うかは微妙だ!

5/21追記:間に合ったぞ!

翡翠の商人 デザインノート

作った経緯とかデザイン思想


翡翠の商人 パッケージ画像

amazonリンク

ボードゲームの基本は競りである。ゲーム内資源に対して「値を付ける」、言い換えれば価値を判断して支払ってもいい犠牲を計算する行為は全ての根源である。陣取りは駒で土地を買う。ワーカープレースメントはワーカーでアクションを買う。RPGは金で装備品を買う。ほかにも株を買ったり属州を買ったりゲーマーはいつも買い物に大忙しだ。

こうした「競り」のルールを構造に分解し、いくつかの二項対立に落とし込む。ちょうど音声学で母音を前後・開閉・円唇非円唇に分類する様な具合だ。すなわち

  • 金を支払うか、機会費用を支払うか
  • 財物を買うか、アクションを買うか
  • 値段を釣り上げるか、段々値段が下がるか
  • 順番に値を付けるか、同時に値を付けるか
  • 単独の物品が対象か、いくつかの組み合わせが対象か
  • 単一の競りが行われるか、同時に複数の競りが進行するか
  • 支払い能力が固定されているか、後から増えるか

以上7項目でルールを記述する。例えば「ハイソサイエティ」は次の様に記述される。

  • 金を払って
  • 財物を買い
  • 値段を釣り上げ
  • 順々に入札し
  • 単独の物品が対象で
  • 一つずつ競りが行われ
  • 最初に全ての金を持っている

あるいは「アグリコラ」は次の様なゲームである。

  • 機会を消費して
  • アクションを選び
  • 徐々に値段が下がり(1アクションでできる内容が多くなる)
  • 順番にアクションを選択し
  • 一度に一つのアクションが選ばれ
  • 複数のアクションが同時に提示され
  • ワーカーが後から増える

これら全ての二項対立について一般的(無標)な値に0、変わり種(有標)の値に1を割り振る。するとハイソサイエティは0000000で、アグリコラは1110011で表される。これを2進数と見なせば前者は0番で後者は115番である。

(´・ヮ・)<0は自然数

これで0番から127番までのルール構造がデザイン空間上に生まれる。元素周期表みたいなものだ。元素と同様に既知のゲームをここに当てはめる。するとやはり同様に「理論上存在できるが未知の箇所」が多数発見される。これで未来にデザインされる競りゲームの性質をある程度予想できるわけだ。

この未来予想は常に正しい。何故なら自分で作るからだ。これら空き地のうちで最も面白そうだったのは次の組み合わせである。

  • 機会を消費して
  • 財物を買い
  • 値段を釣り上げ
  • 順番に入札し
  • 複数の財物の組み合わせを取り
  • 一度に一つの競りが行われ
  • 支払い能力が固定されている

ユニークなのは「機会を消費する」と「値段を釣り上げる」の組み合わせである。コロレットをはじめ「決まった回数だけ取れる」という機会費用型の競りは普通に存在するが、大抵は取る物の内容が徐々に良くなる=価格が下がる競りである。これを釣り上げ型に置き換えると取る物の内容を徐々に切り下げる競りになる。

この論理的演繹により「財宝カードを何枚取るか」を下向きに競るルールができる。「3枚取りたい」「じゃあ俺は2枚でいい」「だったら1枚で落札だ」と段々条件を切り下げていくのだ。これは同じ量の財物に対して「$1払う」「じゃあ俺は$2払う」「だったら$3で落札だ」と値を釣り上げる=条件を悪くするのと構造的に同じである。

 

続いて勝利点であるが、これまた既知の計算方式は概ね5つに分類できる。念能力かな?

  • 直線型:獲得物と成果が線形に対応する
  • 閾値型:獲得物がある値を超えると急激に良くなったり悪くなったりする
  • 曲線型:収穫逓増または収穫逓減の曲線を描く
  • 順位型:他のプレイヤーとの相対量で成果が決まる
  • 組合せ型:特定のものを組み合わせると成果が急激に良くなる

これをそのまま財宝カードとして実装すると次の様になる。

  • 金:量がそのまま得点
  • 贋金:量がそのまま得点だが金を上回ると0点
  • 翡翠:1個で1点、2個で3点(1+2)、3個で6点(1+2+3)…と階和になる
  • 香辛料:集めた量を比較して1位に24点、2位に12点、3位に6点
  • 書物:ABCDEの5種類がありセットを作ると20点

複数の型を組み合わせたりひねりを入れたりすればもっと複雑なものも無限に作れるだろうが、基本形はこれだけである。

 

以上を踏まえて財宝カードを取り合うゲームができる。人間が一度に認識できる対象物はせいぜい8個なので8枚ずつ出てくる。このルールで飽きずに続けられるのは9ラウンドぐらいである。なので7ラウンドに減らして「あと少し遊びたかった」という地点で終わらせる。すると8×7=56枚のカードで成立する。これはちょうどトランプの1デッキの大きさであり、製造費用が膨らまず、また手で散らからずにシャッフルできるほぼ上限である。

物事が計算通りに行くと気持ちが良い…といったことを…「デザイン」というんだ…。

2019/5/25 – 5/26 ゲームマーケット2019春参戦情報

アナログゲーム即売会「ゲームマーケット」に出展します。

  • 名称:ゲームマーケット2019春
  • 開催日:2019年5月25日(土) 5月26日(日)
  • 会場:東京ビッグサイト
  • 開催時間:10:00〜17:00
  • 入場料:1000円
  • C20「スパ帝国」(株式会社キュリオシティ)

翡翠の商人を持って行きます。クッソ運が良ければナショナルエコノミーグローリーも間に合うはず。

5/21追記:間に合いました。

翡翠の商人

新作を出すと言ったな。あれは本当だ。

前から作っていた競りゲームである。得点のカードが場に出てくるので「取りたい枚数」を各自言う。小さい数を言った者から好きなものを選べる。カード1デッキだけで本格的な駆け引きが成立するのだ。

5/18発売。¥1,380+税。ゲムマかゲームショップかAmazonこにょっとで買えるぞ。

説明書:

説明動画:

( ・p・)人 動画作ってくれた人ありがとう