Banished レビュー

村ゲーム”Banished”のファーストインプレッション


随分前から勧められていて興味も持っていて、その上親切な人にプレゼントまでして貰っていながら長らく手を付けていなかった村管理ゲーム。プレイヤーは追放された集団のリーダーになって新天地で村を作る。腹が減ったり寒かったりすると村人は死ぬ。ちゃんと衣食住に学校病院教会墓地まで面倒を見てやらねばならぬ。

まず初回プレイで気付いたのが、これは本質的に人口学のゲームだという事だ。スタート時点の集団は基本的に若者ばかりで、家と仕事さえあればどんどん子供を作れる。こいつらは僅かでも食糧に余剰があれば全身全霊をかけて生殖に励む筋金入りの色狂いであり、飢餓や寒さで死ななければ際限なく増える。追放されたのも色欲の悪徳を教会に見咎められて破門されたのに違いない。

さてそうやって人を増やしながら数十年をやり過ごすと、ある時点で人口増加が頭打ちになる。新しい子供が一向に生まれず徐々に人が減る。別に病気や不幸が蔓延しているわけでもないのに何故だろう…と検分すると何の事は無い、皆歳を取りすぎて子供を作れなくなっていたのだ。老人とは過去に若者だった人間である。スタート時点で皆若かった第一世代は数十年後に一斉にジジババになり超少子高齢化社会へと突入する。それに連れて人口も激減し共同体規模が一気に小さくなる。

だが面白い事に、このゲームの子供は遊んだり勉強しているだけの非生産人口だが老人は死ぬまで働き続ける。つまり少子化局面では総人口に占める生産人口の割合が極めて高くなり、経済運営が非常に楽なのだ。また大量のインフラを少人数で使えるので生産効率も高く、人口増加に備えて新たなインフラを建設する必要も無いので資源が物凄く余る。普通に暮らしているだけで食糧や資材のストックがどんどん積もる。

それからまた数十年経つと、今度は数少ない子供たちが大人になって手当たり次第くっつき子供を作り始める。第一世代の遺したインフラと貯蓄があるので生活は物凄く楽だ。どんどん家を作ってねずみ算で人口が増え続ける。この状態が暫く続くと人口ピラミッドが発展途上国めいたピラミッド型になり、総人口に占める子供=非生産人口の割合が増えてまた経済運営が苦しくなる。といった具合にミクロなスケールで人口と年齢分布が経済と社会に及ぼす影響を気楽に観察できるゲームである。ちょっとバックストーリーを変えればそのままシリアスゲームにもなりそうだ。

翻訳記事:勝つ為に戦う(21)

これは翻訳記事です

 

アタッカー

チェスプレイヤー:フランク・マーシャル (1877-1944)

マーシャルはペトロシアンよりも古い時代、「ロマン派」に属する。他のロマン派と同じく、マーシャルは閃きの一手と熱い戦いに生きていた。彼は防御をほとんど捨てて乱戦に持ち込み、天才的な手を繰り出して勝利を掴んだ。苦境から脱する妙手のゆえに彼は「偉大なるペテン師」と呼ばれた。彼は勝利の為と同じくらい、観客とスリルの為にも戦った。1909年から1935年にかけてアメリカチャンピオンの座を維持した。

私はいつも自由奔放な局面を好み、相手を可能な限り早くチェックメイトにしたいと思う。攻撃は最大の防御なりという古い諺の通りさ。

—フランク・マーシャル

 

マーシャルの奇手はまるで棋譜の誤植みたいだ。

—チェスプレイヤー、ウィリアム・ネイピア

 

マーシャルほど勝つ事だけでなくチェスそのものを楽しんだチャンピオンはいないだろう。彼は妙手のチャンスを逃すぐらいなら敗北を選んだろう。

—チェスグランドマスター、アンディ・ソルティス

 

ストリートファイタープレイヤー:アレックス・ヴァイエ

ヴァイエはあらゆる意味で「恐るべき」男だ。強く、自信に溢れ、体格もよい。ヴァイエの持ち味はその攻撃的なスタイルで、防戦一方の亀を攻め切ってプレッシャーで圧倒する。そのスタイルは誰にも真似できない。彼の技は彼がやった場合にしか上手く行かないのだ。彼は予測不可能な事を予測不可能なタイミングで行い対戦相手を困惑させる。そして反射神経とリスクを取りたがる傾向でも有名だ。一体何がいつ繰り出されるのか相手は決して分からない。次第に彼のボタンの押し方さえ恐ろしくなって来る。彼のプレイスタイルと物理的な存在感はゲームの決着のはるか前に相手を心理的に圧倒する。いや時には始まる前に。

だがここで、私がヴァイエの本当の秘密と思う物を明かそう:彼の苛烈な攻めと冒険はたいてい幻影なのだ。貶しているのではない、褒め言葉だ。オーティズが恥も外聞も無く逃げ回るのに対し、ヴァイエは果敢に攻めるかの如く見える。次々に技を繰り出し相手の周りを飛び回る。いかにも攻めている様だが、実は安全な所で込み入ったダンスを踊り相手を誘っているのだ。彼が多くのプレイヤーよりもリスクを取る傾向にあり、優れた反射神経を持っているのは間違いないが、リスクに見える物の多くはその実「織り込み済み」なのだ。何故なら彼は対戦相手が特定のタイミングで特定の行動をする様に追い込んでいるのだから。相手のする事がほとんど確実に分かっていれば、速い反射神経も過度のリスクも必要無いのである。

ヴァイエは狡猾に「偽の攻撃」と本当の攻撃を混ぜて繰り出す。本当のリスクを取る時もあれば、単に他のプレイヤーの悪い癖につけ込む時もある。彼が格闘ゲーム界でも最高クラスの「恐怖のオーラ」を纏っているのも納得だろう。

原文:http://www.sirlin.net/ptw

バイブルハンター レビュー

聖書ゲーム「バイブルハンター」の評。


原作付きゲームは概ね3つの方向がある。1つ目は原作ファン向け。ゲームとしての完成度は度外視してキャラクターなりエピソードなりの再現に腐心する。2つ目はゲームファン向け。原作ファンは無視してゲームとして面白くなる様に作る。3つ目は原作ファンかつゲームファンに向けて作るもので、例えば「ゲッターロボ大決戦」はこのカテゴリだった。ゲッタービーム1発で空になるエネルギータンクやクッソ難しい合体訓練は原作ゲッターロボを読んでいてかつゲームをやり込んでいる人間には大好評だった。それ以外に不評ではあったが。

今回レビューする「バイブルハンター」も広義には原作付きゲームの仲間である。果たしてこれが原作ファン、ゲームファン、原作を知っているゲームファンを満足させるだろうかという観点で論評していこう。

 

1.ゲームファン

まず本作はゲームとしてよく出来ている。ルールにきちんと焦点があり、初回プレイでも「何をすれば良いか」が自然な形で明らかになるし戦略を考えていける。今回は強い人物カードがあるからまず競りに負けないだろう、よし黙示録にサタンを付けてやれ。誰か競りに負けた不幸な奴に押し付けよう。あるいはパウロがいるから偶像崇拝があっても構わず取ってしまおう、後で悔い改めれば得点マイナスは消える。といった具合だ。

ルールブックも分かりやすく書かれている。多少文言の切れ味が悪い部分はあるが(そのすべてのプレイヤーとは同点を出した全員か、それともプレイヤー全員か?)、少なくともゲームをする人間が迷ったり面倒くさかったりはせぬ。2014年の日本で流通するプロダクトとして高い水準にあると思う。

また印刷物のデザインも優れている。ゲーム上必要な情報が見やすいのと、人物のシルエットがはっきりしている為に「遊具」としての機能性が高い。

 

2.原作ファン

神の子イエス、預言者エリヤ、使徒パウロといった原作ファンなら誰でも知っている大物が出て来るのは中々嬉しい。肩書きや紹介がビジュアルと共に出て来る事で、多くの人物の魅力が上手く引き出されている。言葉カードもバニラ得点の「祈り」、マイナスになる「サタン」、悪を清める「葡萄酒」などエッセンスが抽出されている。違和感が無い事はとても重要だ。どんな場合でもサタンを取ったら何もいい事が無いし祈りは良い結果をもたらす。これは原作ファンも納得である。

 

3.原作とゲーム両方のファン

ここは綺麗に落とし込めている部分が多い。例えば迫害者から回心したパウロは「言葉カードを1枚捨て札にする」という効果を持っており、マイナスカードを取っていた場合に浄化として使える。箱舟で生き物を救ったノアは捨て札から人物カードを回収できる。神の子イエスは強い。原作からゲームルールへの落とし込みは難しい部分だがほぼ最適解に近い形で実現されている。

落とし込みが雑なのはバックストーリーだ。どこかの平行宇宙で聖書が散逸したので預言者や使徒を召還してバトルで集める必要は果たしてあるのか。最も勝利点の高いプレイヤーが「真のバイブルハンター」になるという設定は少年ホビー漫画か? もう少し大人向けのバックストーリーを考えたので以下に掲載しよう。

 

プレイヤーは神学者である。聖書の貴重な原本が発見されたので誰が自分の手元に置いて保管するかを争っている。それぞれの本について信仰論争をして勝った方が取るのだ。人物カードは「誰の言葉を引用するか」である。例えばキリストの言葉を引用すれば論争にはほぼ必ず勝つ。パウロを引用すると悪魔に囚われた心が浄化される。言葉カードはその原本に付く評判で、「祈り」なら信仰上の価値が高くなり、「サタン」なら世俗の利益が付いて来る為に信仰の躓きと化す。最後に価値の高い原本を手元に保管している神学者の勝ちだ。

 

海外展開する時は是非こちらのストーリーを採用して欲しい。