ナショナルエコノミー・グローリー デザインノート

派手でバランスの取れたゲームを作る


ゲームはボトムアップで作る場合とトップダウンで作る場合がある。ボトムアップは「こういう動きが面白い」「こういうルールが面白い」という中核部分が先に出来てそこから製品としての体裁を計算する作り方である。トップダウンはまず「冒険要素のあるデッキ構築ゲームを作ろう」とか「このシリーズの次を作ろう」とか製品の構想があり、枠の中に仕様を埋める作り方である。

グローリーは後者である。イラストレータに仕事を供給するためにナショナルエコノミーの続編を作る事になり、カード枚数も箱の大きさも全て先に決まった状態からプロジェクトが始まっている。

この種のトップダウン方式のコツは最初に「掴み」を作る事だ。メセナの大聖堂の時もそうだが、パッと見てとんでもなく強かったり使いたくなる要素をねじ込み、その存在を正当化する様に逆算してバランスを組んだり他の要素を調整する。こうすると早い段階で自由変数を減らせるので制作に迷わない。コスト10のものが存在する環境に踏み倒しは存在してはならないとか、他の勝ち手段はそれに対抗できるぐらいのパワーが必要だとか、一箇所を決める事で自動的に他の仕様が限定されるのだ。

グローリーの掴みは機械人形である。こいつは4コストで作れる無料の労働力だ。労働者のおっさんと全く同じ機能を持つが維持費はかからん。研修も要らん。テスト版を見せた人々には「こいつは強すぎるだろ」という感想を毎回貰った。

インパクトはこれでよろしい。後はこいつに合わせてバランスを組むだけだ。生産力を労働力に変換できる以上、ドローソースはやや控え目にせねばならん。でないと無限に拡大再生産が行われて収拾がつかぬ。

そこで今回のレギュラーになったのが養鶏場である。手札が偶数なら2枚、奇数なら3枚の消費財を引く。前作の養殖場に近いがこちらは1回起動すると手札が偶数になるので生産力が極端には伸びない。併せて芋畑や果樹園の様な「一定枚数まで補充」の類は全て退場させ、お手軽ドローソースを根絶した。手軽なドローがそれ自体として悪いわけではないが、機械人形という受け皿と同じ環境に存在すると具合が悪いのだ。

ドローがただ減るだけだと地味なゲームになって楽しくない。また機械人形ルートに対抗する別の勝ち手段も要る。両方を一遍に解決する方策として、勝利点トークンを集めると建設コストが安くなるドロー施設を導入した。これはフレーバーとしては高度な技術を表している。技術研究に励んで少人数で効率的に生産するか、頭数を揃えて力で押すか。卓上で異なる戦略が競い合うとリプレイ性が高くなりやすい。

メセナにおける勝利点トークンはプレイヤーが作った建物からしか生まれなかった。このためゲーム展開によってはほとんど登場せず、序盤から参照するのが難しいというデザイン上の制約があった。グローリーでは最初の公共施設を追加して勝利点ソースを作る事でゲームの中核に持って来る事にした。

最後はテーマだ。ロボットがいて、高度な工場があって、技術を公共の空間から掘り出して来るのはどんな世界か? スチームパンクだ。上手く行くプロジェクトは全てが理路整然と嵌り迷いがない。かくて6週間で過去最高のナショナルエコノミーが組み上がった。