バイブルハンター レビュー

聖書ゲーム「バイブルハンター」の評。


原作付きゲームは概ね3つの方向がある。1つ目は原作ファン向け。ゲームとしての完成度は度外視してキャラクターなりエピソードなりの再現に腐心する。2つ目はゲームファン向け。原作ファンは無視してゲームとして面白くなる様に作る。3つ目は原作ファンかつゲームファンに向けて作るもので、例えば「ゲッターロボ大決戦」はこのカテゴリだった。ゲッタービーム1発で空になるエネルギータンクやクッソ難しい合体訓練は原作ゲッターロボを読んでいてかつゲームをやり込んでいる人間には大好評だった。それ以外に不評ではあったが。

今回レビューする「バイブルハンター」も広義には原作付きゲームの仲間である。果たしてこれが原作ファン、ゲームファン、原作を知っているゲームファンを満足させるだろうかという観点で論評していこう。

 

1.ゲームファン

まず本作はゲームとしてよく出来ている。ルールにきちんと焦点があり、初回プレイでも「何をすれば良いか」が自然な形で明らかになるし戦略を考えていける。今回は強い人物カードがあるからまず競りに負けないだろう、よし黙示録にサタンを付けてやれ。誰か競りに負けた不幸な奴に押し付けよう。あるいはパウロがいるから偶像崇拝があっても構わず取ってしまおう、後で悔い改めれば得点マイナスは消える。といった具合だ。

ルールブックも分かりやすく書かれている。多少文言の切れ味が悪い部分はあるが(そのすべてのプレイヤーとは同点を出した全員か、それともプレイヤー全員か?)、少なくともゲームをする人間が迷ったり面倒くさかったりはせぬ。2014年の日本で流通するプロダクトとして高い水準にあると思う。

また印刷物のデザインも優れている。ゲーム上必要な情報が見やすいのと、人物のシルエットがはっきりしている為に「遊具」としての機能性が高い。

 

2.原作ファン

神の子イエス、預言者エリヤ、使徒パウロといった原作ファンなら誰でも知っている大物が出て来るのは中々嬉しい。肩書きや紹介がビジュアルと共に出て来る事で、多くの人物の魅力が上手く引き出されている。言葉カードもバニラ得点の「祈り」、マイナスになる「サタン」、悪を清める「葡萄酒」などエッセンスが抽出されている。違和感が無い事はとても重要だ。どんな場合でもサタンを取ったら何もいい事が無いし祈りは良い結果をもたらす。これは原作ファンも納得である。

 

3.原作とゲーム両方のファン

ここは綺麗に落とし込めている部分が多い。例えば迫害者から回心したパウロは「言葉カードを1枚捨て札にする」という効果を持っており、マイナスカードを取っていた場合に浄化として使える。箱舟で生き物を救ったノアは捨て札から人物カードを回収できる。神の子イエスは強い。原作からゲームルールへの落とし込みは難しい部分だがほぼ最適解に近い形で実現されている。

落とし込みが雑なのはバックストーリーだ。どこかの平行宇宙で聖書が散逸したので預言者や使徒を召還してバトルで集める必要は果たしてあるのか。最も勝利点の高いプレイヤーが「真のバイブルハンター」になるという設定は少年ホビー漫画か? もう少し大人向けのバックストーリーを考えたので以下に掲載しよう。

 

プレイヤーは神学者である。聖書の貴重な原本が発見されたので誰が自分の手元に置いて保管するかを争っている。それぞれの本について信仰論争をして勝った方が取るのだ。人物カードは「誰の言葉を引用するか」である。例えばキリストの言葉を引用すれば論争にはほぼ必ず勝つ。パウロを引用すると悪魔に囚われた心が浄化される。言葉カードはその原本に付く評判で、「祈り」なら信仰上の価値が高くなり、「サタン」なら世俗の利益が付いて来る為に信仰の躓きと化す。最後に価値の高い原本を手元に保管している神学者の勝ちだ。

 

海外展開する時は是非こちらのストーリーを採用して欲しい。