創作は無報酬

例えば俳優の仕事を考えてみよう。俳優の第一の顧客は演出家である。演出家の指図に従って演技するのが彼の仕事である。彼が世の中に価値を提供するのは演技によってであるが、自分の報酬を得るのは指図に従う事によってである。好き勝手にやるならアマチュアとして過ごすだけだ。

建築家やSEの仕事はそれぞれ物を作る事だが、クライアントの要望を汲み取る事で初めて報酬が生ずる。アスリートはスポーツが仕事だが企業の広告塔となる事で報酬を得る。生産活動と報酬を得る道筋は必ずしも同じではない。

ゲーム作家はどこから報酬を得るのか?ゲーム制作によってでない事は確かである。筆者の報酬は材料を発注したり印刷所と交渉する所から生じている。ビジネスである。ゲーム作りだけをやっていても報酬は生じないが、ビジネスだけをやっていれば(例えば輸入雑貨屋)ある程度の報酬は生ずる。

作家が創作物を直接金に変換しようとすると恐ろしくレートが悪い。Gumroadもアメロードも印税生活の提供にはほど遠い。そこで営業をかけるとか、編集者と意思疎通をするとか、教室を開くとか小売りをするといったビジネスでもって生計を立てる事になる。経済のみの観点から言えば、創作はビジネスを助ける事によって間接的に報酬を生む。ビジネスは直接部門であり創作は間接部門である。経理部しか無い会社が収益を上げないのと同様、創作しかしない作家は無報酬である。

世の中には非常に大勢の無報酬作家がいる。そして少なからず優れた才能が含まれている。職業作家よりよほど優れた人もいる。それでも無報酬なのは、創作そのものが報酬を生み出す性質を持っていないからである。創作の支援を受けてビジネスをする事で初めて報酬が生ずる。

創作は良い物である。人生を賭ける価値がある。ただし原則無報酬だ。生計を立てるにはビジネスが必要。この時代にあっては両方やらねばならぬ。