翻訳記事:勝つ為に戦う(14)

これは翻訳記事です

 

火攻め

故に火を以て攻を佐くる者は明なり。水を以て攻を佐くる者は強なり。水は以て絶つべきも、以て奪うべからず。

—孫子兵法

孫子は敵に対して火を用いる事を述べているのだが、同時にそれは根源的な戦術の知見でもある。同時に複数の攻撃を仕掛けるのである。敵の建物に火を付けて、出て来た所を待ち伏せる事もできる。野営地の片側に火をかけて、反対側から攻める事もできる。これも結局は待ち伏せである。どう用いるにせよ、火は基本的に攻め手側が用いる追加の攻撃力である。火は説得も買収も効かないし無視するわけにも行かない。火は無慈悲である。敵を攻撃し追い散らすという点では兵隊と同じ働きをするが、火は一度付けてしまえば人力を要さない。そして兵士の犠牲を伴わずに敵の兵舎の中へ入り込んで行ける。

火は付ければ勝手に燃え広がるため、同じ人数でより多くの攻撃ができる。火は敵を阻むため、1つの部隊を分散させる事なく2方向から挟み撃ちにできる。ここでの教訓は、2つの攻撃を同時に浴びせると有効性が跳ね上がるという事である。

多くのゲームにこの概念が登場する。格闘ゲームの飛び道具(波動拳など)は基本的に独立した攻撃主体である。飛び道具を一旦生成したら、キャラクターはそれから自由に動いて攻撃できる。その間も飛び道具は自分の仕事をしているのであり、2つの攻撃を同時に浴びせるのと同じ事になる。格闘ゲーム「マーヴル VS. カプコン2」はその極端な例であり、飛び道具とキャラクターに加えて「アシストキャラクター」を呼び出して攻撃させる事ができる。メインキャラクターとアシストキャラクターによる同時攻撃は様々な恐るべき固め技を可能にしている。相手のアシストキャラクターが既に死んでいて同時攻撃ができず、こちらは可能という場合、その優位は計り知れないものになる。

チェスの基本戦術である「フォーク」と「ピン」も同時攻撃という点では似ている。フォークとは1つの駒で相手の複数の駒を同時に攻撃する「両取り」である。例えばこちらのナイトが相手のビショップを取る事もルークを取る事もできるとする。相手はこのナイトを取らない限り、2つの駒を同時に守る事はできないのである。ビショップを逃がせばルークを失う。ルークを逃がせばビショップを失う。

ピンは相手の1つの駒を攻撃する。ただしその駒が逃げたらその後ろの駒が攻撃に晒されるのである。例えばこちらのルークが数マス先にいる相手のビショップを脅かしているとしよう。この状態で相手の番になった。ところがビショップの後ろには相手のキングがいる! もしビショップがルークの攻撃から逃れようとすれば、今度はキングに危害が及ぶのである(ちなみにこれはルール上許されない。自分からキングを危険に晒してはいけない)。この場合ビショップは「キングに釘付けにされている」のである。ルークは1つの駒を攻撃しているだけに見えるが、その実2つの駒を同時に脅かしているのだ。ターン制ゲームは往々にして、1手で2つの攻撃を仕掛けられる手を探して差し込むという戦いになる。

孫子兵法の火の項目をより直接的に適用できるのは、FPS「カウンターストライク」の手榴弾と閃光弾であろう。これらは投げてから爆発するまでに数秒の間があるので、相手が手榴弾なり閃光弾なりに対処せねばならないまさにその時に、こちらは自由に動いて攻撃できるのである。タイミング良く手榴弾を投げる事ができれば、5人のチームでも10人のチームより強力な攻撃を仕掛ける事ができる。「火攻め」、あるいは手榴弾・飛び道具・チェスの駒などによる同時攻撃は大きな優位をもたらすのである。

原文:http://www.sirlin.net/ptw