翻訳記事:勝つ為に戦う(24)

これは翻訳記事です

 

万能流

チェスプレイヤー:エマーヌエール・ラスカー(1868-1941)

ラスカーは人当たりのいいチェス名人だ。そして他の分野の名人でもある。数学の博士号を持ち、1930年代にアインシュタインのルームメイトだった。ラスカー博士はブリッジをやり、囲碁をやり、そしてチェスもやった。かように様々な興味を持っていた博士であるが、特にチェスの世界は完全に支配していた。チェス世界王者の座を何と26年間も保持し、その間に7回の防衛に成功している。勝率は66%で他のどの歴代チェス世界王者より高い。112試合の戦績は52勝16敗44引き分け、合計得点は74だった。

だがラスカーの天才性は数字だけでは測れない。彼は攻撃的なプレイヤーだったが攻撃だけではなかった。防御的でもあったが防御だけでもない。彼の数学的知性は他の者には見えない盤上の正解を見つけ出したが、問題を解くだけに終始したのでもない。彼はチェスには魂が宿っていて、対戦相手の心理はセオリーと同等以上に重要だと信じていた。彼のスタイルは多くの側面と理論をバランスよく組み合わせたものだった。故に変幻自在で適応力に優れていたのだ。多くの名人がそうであるように、彼はあたかも簡単な様に難しい事をやってのけた。対戦相手を不安に陥れる手を見つける事に長けており、一見絶望的な状態から挽回する術を知っていた。そして特に注意を引かれるのが、彼には対戦相手の心を読む神秘的な力が備わっていると思われていた事だ。「心を読んでいる」というある種の漠然とした言説が、戦略ゲームの達人にはいつも付いて回るのだ。

 

ラスカーは多くの劣勢を挽回し、ある時は魔術を使ったと告発され、別の時には催眠術だと言われた。そして繰り返し繰り返し幸運の賜物だとも言われた。実際のところ、彼はしばしば故意に難局を作り出していたのだ。その上で適切な対処をする事で攻撃者に大きなストレスを与えた。まず希望を与え、次に道程を困難で埋め尽くし、疑念と混乱と恐慌に陥れる。これがラスカーのやり方だった。

—チェス作家、ウィリアム・ハーツトン

 

シュタイニッツもタラッシュも完璧な戦略を用いて常に最善手を指した。対してラスカーはもっと柔軟で、チェスの本質を誰よりも見抜いていた。客観的な真実の探索ではなく、極限状況下で自分自身と相手に心理的に打ち勝つ事が本当の戦いなのだ。

—ウィリアム・ハーツトン

 

特筆に値するのは、ピルズベリー、マロツィー、ヤノフスキーといった達人ですらラスカーを前にすると催眠術をかけられた様になってしまう事だ。

—チェス注釈家、ゲオルク・マルコ(?)

 

近年私が知り合った中で、エマヌエール・ラスカーは間違いなく最も興味深い人物の一人だった。

—アルバート・アインシュタイン

 

ストリートファイタープレイヤー:ジョン・チョイ

チョイは人当たりがよく、慎ましく、そして凄まじく強いプレイヤーだ。高校では彼はレスリングのチャンピオンだった。そして今は格闘ゲームのチャンピオンだ。恐らく全米でも最強だろう。チョイは反応速度が優れているが、最速ではない。技量と操作精度も優れているが最優秀ではない。彼が最も優れているのは適応力と柔軟性だ。チョイは相手の戦い方を素早く学び対策を見つける。チョイを相手にすると、段々自分が馬鹿の一つ覚えで戦っている様な気分になって来る。ラスカーと同様、彼も時に攻め、時に守り、バランスの取れた試合をする。余計な事はせず、あたかもゲームが単純であるかの様に見せる。これまたラスカー同様、論理的最善手を見つける分析的アプローチと相手の考えを読む心理的アプローチを組み合わせる。この種のプレイヤーから得意武器を奪うのは不可能だ。何故ならどんな状況も出来事も全て武器に変えてしまうからだ。相手の得意な場面さえも。こうしてみれば、私の様なマニアックやオーティズの様な防御一辺倒よりも、中道を行くスタイルが結局は強いのも納得が行くのではないか。

チョイは米国の大会での優勝歴があまりに多くここには書き切れない。

原文:http://www.sirlin.net/ptw