無への生贄

我々が暮らす物質空間の周りは無の空間が取り巻いている。新たに生まれる命はそこからやって来る。死んだものはそこへ帰る。自然の恵み、運命の巡り合わせ、突然やって来る閃きなどは全て無の世界からの贈り物である。

贈られた者は贈らなくてはならない。贈った者は贈られなくてはならない。ゆえに物質界は無の空間に反対贈与をするべく義務づけられている。贈与のやり方は様々だ。生贄を捧げたり、祈ったり、香を焚いたり、聖堂を建てたり。

芸術もその一つだ。芸術の本質は生命エネルギーの贈与である。物質界のエネルギーを投じ、物質界に直接役立たない物を産する。それは無の世界への贈与に他ならない。芸術家が報酬を得るのは作品への対価でなく、「贈与した者は贈与される」という原則に基づいて贈与を受けているのである。

歌も詩も演劇も、全ては天への捧げ物だ。それを産するために投じられたのは命の輝きであって、まさに生贄と同じである。そしてゲームはオリンポスの神々の暇つぶしとして供されるのだ。ぜひとも良作を捧げたい。