翻訳記事:勝つ為に戦う(15)

これは翻訳記事です

 

分断と征服

 

Zileasという男

私は格闘ゲームの世界で育って来たが、どのゲームも大体同じ様なコミュニティを持っているはずである。RTS界にはZileas(本名トム・カドウェル)という男がいるのだが、彼は言わば平行世界の私である。ちなみに彼はMITにおける私の後輩であるが直接会った事は無い。我々はそれぞれのゲームで有名になり互いの存在を知った。そして今ではどちらもゲーム業界にいる。

Zileasは敵を分断して征服する事や、火力を集中する事について色々書き残している。まさに孫子と同じである。

ZileasはStarCraftについて論じ、孫子は実際の戦争を論じているが、RTSというのは実際の戦いを(一応)模した物である。ゆえに両方の達人が同じ様な考察に至ったのも驚くには当たらない。興味深いのは、孫子は大規模なマクロ管理の観点から、Zileasは小規模なミクロ管理の観点からそれを書いている事だ。皮肉な事に、ZileasはまさにそれによってStarCraft界で名声を獲得した。マクロ管理を重視する「守旧派」と一線を画し、ミクロ管理による分断と火力の集中を重視する「革新派」アプローチを確立したのである。何が皮肉か分かるだろうか? 守旧派も革新派もその実、孫子兵法に見られる同一の考え方をそれぞれに適用した物なのである。

孫子はマクロな観点において、双方の兵力を勘案していつ攻めるかを論じている:

戦いの鉄則。敵の10倍の兵力があればこれを囲む。5倍あれば攻める。2倍あれば部隊を2つに分けて挟み撃ちにする。そして前に対応すれば後ろから、後ろに対応すれば前から潰す。兵力が同等なら敵を誘い出すもよし。やや不利なら敵を避ける。大きく不利なら逃げる。寡兵でも頑強な戦いはできようが、最後には衆兵に捕われる。

Zileasはマクロな観点において、どんな場合に(StarCraftの)敗北が起きるか論じている:

キルレシオ(彼我損耗比)に双方の生産力比をかけ算して、答えが1を下回っていれば敗北に向かっている。相手の生産力が伸びつつあり、自分は停滞していて、かつ先の値が1に近ければやはり敗北に向かっている。キルレシオというのは双方の死んだユニットの数ではなくて、死んだ資源の量で考える。ユニットの生産コスト、維持コスト、施設の建設コストなどである。

このZileasの言葉はいささか不思議かも知れないが、20回かそこら読む内にはStarCraftの深い見識が得られよう!

 

兵力の不均衡

孫子の主たる論点の1つは、敵より多くの兵で攻めるという事である。仮に敵軍が自軍と同等の規模と戦力を持っていたとしても、部分部分に注目する事でそれは可能になる。敵が広大な帝国の1ヶ所だけを守っていて、かつこちらがそれを知っていたら、帝国の残りの部分は全く無防備である。自軍の一部分を割くだけでも無防備な拠点を次々に落とせるだろう。逆に多くの拠点を相手が同時に守っていたら、個々の部隊はそれだけ小さくなる。相手が10ヶ所ある拠点を全て均等に守っており、こちらが全軍の半分を1ヶ所に集中させて攻めたら、それだけで戦力比は5対1になる! こちらは火力を一点に集中させ、相手は分散し弱まっているのである。

こうした戦術の成否はいかに自軍を隠し、敵軍を偵察できるかにかかっている。隠蔽と偵察無しには孫子の「分断と征服」方式は実現しない。

こちらがどの拠点を攻めるかは事前に知られていてはならない。どこを攻めるか分からなければ、相手はいくつもの拠点で同時に守りを固めなくてはならない。即ち戦力が分散され、どこを攻めようとこちらの戦力が上回るという事になる。

戦力が減るのは複数の攻撃可能性に備えるからである。戦力の優位は相手に分散守備を強制する事によって生まれる。敵がいつどこから来るか分かっていれば、広く散らばった部隊を集結させてそれに備える事ができる。しかしいつ来るかもどこから来るかも分からなければ、左翼は右翼の救援に行けず、右翼もまた左翼を助けられない。前方は後方を助けられず、後方も前方を助けられない。

そこで孫子は自軍の位置と意図を秘密にせよと説く。そして敵軍の位置と意図を探り当てろと説く。そうする事によって、こちらは敵の弱点に火力を集中できる。その為に防備をおろそかにしたとしても、敵がこちらの弱点を知らなければ攻めようが無い。敵の分散した部隊はこちらの集中した部隊に対してなす術なく打ち破られるのである。

 

StarCraft「守旧派」アプローチ

孫子のアプローチはZileasが言う所の「守旧派」である。守旧派のStarCraftプレイヤーは強力な経済の建設を目指し、それによって敵を上回る量のユニットを作ろうとする。敵に10倍すれば囲み、5倍すれば攻めよ。まさにこの考えである。個々の局地戦は重要でないと彼らは考える。重要なのは大きな機動戦力を作り上げ、敵の弱点を突ける様にする事だ。

彼らの殆どはStarCraftの前作、Warcraft 2から来ている。Warcraftのインターフェースでは個々のユニットを操作して戦いを管理してもそれほど益は無かった。Warcraftのユニットは全体に均質で、StarCraftのTemplarとReaverに見られる様な50:1の損耗比は存在しなかった。勝つ為には全体の管理こそが重要だった。大きな軍隊を作り、敵を分断し、自分の戦力を集中する。

 

Starcraft「革新派」アプローチ

そこにZileasがやって来た。彼はミクロな戦闘管理と個々の局地戦がどれほどStarCraftにおいて重要かを指摘した。そして分断と征服を非常に小さなスケールで行うという新しい考えを広めた。

教練その1。Shiftキーでキューを入れて火力を集中すべし。仮に敵と遭遇し、双方ともMarineが10体ずつだったとしよう。普通ならユニットは専らランダムに撃ち合い、戦闘の終盤になってようやくユニットが死に始める。ところが上級者は全てのユニットを選択し、敵の1体に向けて集中砲火を浴びせる。そしてShiftキーで次の命令を出しておき、その次のユニットにまた集中砲火できる様にする。この繰り返しだ。10体の集中砲火によって敵の1体はすぐに死に、その分だけ敵部隊の火力は減る。Shiftキーで命令を出しておいたのですぐに次の1体に集中砲火し、それも倒したら次の1体、その次の1体と続く。相手は火力を分散しているのに対しこちらは集中している。このテクニックをこちらだけが使っていれば、戦闘が終わる頃にこちらは4体生き残り、敵は全滅しているだろう。

教練その2。陣形を使って火力を集中せよ。2つの部隊が交戦し、戦力はどちらもMarine10体ずつだとしよう。この場合陣形が全てを決める事がある。一方のプレイヤーは長蛇の列で行進し、もう一方は横一列の陣形でそれを迎え撃ったら、横陣は縦陣の先頭ユニットに集中砲火を浴びせられる。それを倒したら2番目。また倒したら3番目。行列の最後のユニットが戦場に着く頃には、他のユニットは皆死んでいる。横陣より更に良いのは「浅い弧」である。弓なりの陣形で最大の火力集中を可能にするのである。

教練その3。狭い場所を塞いで敵を分断すべし。大軍が狭い道(自然地形なり人工物で塞がれているなり)を通らねばならない場合、必然的にそれは分断される。通って来るユニットを待ち構えて1つずつ撃破すればよい。

教練はまだ沢山あるが、要点は個々の戦いにおいて火力を集中するという事である。Zileasの最も象徴的な火力集中戦術は”Doom Drop”だ。

Zileasはプロトス使いである。プロトスはユニットの数は少ないが個々の攻撃力が高い。つまり何もしない内から既に火力が集中されているのである。いわゆるDoom Dropとは、輸送機(他のユニットを運ぶ飛行機)4隻程度を用意し、Reaver、Templar、Archonなどの強力なユニットをそれに詰め込む。場合によっては戦闘機の護衛を付ける。この超戦力、即ち集中した火力を素早く一点に投入すればほぼどんな拠点も落ちる。Archon1体、Reaver3体、Zealot4体、Templar3体が突如として本拠地の真ん中に出現したら、それだけでもう対処のしようが無い。応戦しようにも味方の位置取りが悪過ぎる。

これの強化版もある。投入したユニットの幻影を作り出して敵の攻撃を吸収するのである。輸送機を4つも敵陣に突入させるのはそう簡単ではない。道中に敵の対空砲があったら撃ち落とされてしまうからである。そこで例えば輸送機4体に戦闘機5体を同行させると、ターゲットが増えて敵の砲撃が分散される。そこで更に10体の戦闘機の幻影を同行させればもっと良い。幻影は攻撃力を持たないが、敵の攻撃を引きつけて本物を守ってくれる。幻影は敵を欺き、その対空攻撃力を分断するのである。

 

ミクロとマクロ

ではなぜ「分断と征服」を大きなレベルでもやらないのだろうか? 戦闘レベルの集中と戦略レベルの集中はどちらか片方を選ばなくてはならないのだろうか? StarCraftにおいてその答えはイエスである。本当に。人間の注意力は有限であって、Doom Dropを仕掛けるのも大規模な経済を建設するのも相応にそれを消費するからだ。

 

第三の資源:集中力

Zileasは語る:

資源というと、殆どのプレイヤーは鉱物とガスを思い浮かべる。勿論それはゲームの中核であるが、同時に集中力という要素も考えなくてはならない。ここでは集中力をプレイヤーが何らかの作業に集中できる時間として定義する。新拠点の建設は多くの集中力を要する作業である。とりわけプロトスにとってはそうだ。軍事攻撃も動揺に多くの集中力を要し、また多くの集中力を投ずればそれだけ効果が増す。偵察すら集中力を要する。優れたプレイヤーと頂点に立つプレイヤーの大きな違いは、いつ戦いにかかり切りになる必要があるかを知っている事だ。そして相手もまた有限の集中力をやりくりしているという認識だ。集中力の消費を最小限に抑えるテクニックは色々ある。ホットキーを使うとかキューに命令を入れるとか。しかしそれでも、全ての行動は何らかの形で集中力を消費する。そしてStarCraftが上手くなれば、それだけ多くの集中力を持った相手と対戦する事になるはずだ。集中力という資源が充分にあれば、それを活かして複数箇所に同時に攻撃を仕掛け、敵を圧倒するという手も使える。そして残念ながら、集中力はほぼ生まれつきの才能によって決まる。多くのゲームをこなせばゆっくりと成長するが、それでも持つ者と持たざる者は厳然と存在する。これは言わば短距離走の能力に近い。長距離走者には訓練すればなれるが、短距離走者には才能の壁が立ちはだかる。ゆっくりと成長させる事はできても個々人の限界がある。もし私と同等の技能と、より優れた才能を持つプレイヤーがいれば、頂点の座は間違いなく奪われてしまうだろう。

集中力を鍛える最も良い方法は2対1や3対1で戦う事だ。つまり複数の対戦相手と同時に戦う。私は3対1でも大抵勝てる。2対1ならほぼ負けは無い。そしてそれが可能な理由は、単純にマルチタスクが得意だからである。また2対2のチーム戦というのも興味深い。双方の陣営とも通常の2倍の集中力を使えるのである。正確には「ほぼ」2倍である。チームメイトと意思疎通をしなくてはならないからだ。

プレイヤーが大小どちらの管理に集中力を投ずべきかは、個々のゲームとプレイスタイルによって変わる。そしてどちらの場合でも原則は同じだ。火力を集中し、敵を分断せよ。

 

原文:http://www.sirlin.net/ptw