ある学生の告白

ある学生の告白

中学を卒業したTにとって、すぐに働き始める事はほとんど運命の様なものだった。アルコール依存症の父も薄弱の母もそれを当然と思っている様だった。新聞配達で得た少しの金を持ち帰り、あばら屋で暗い食卓を囲む生活を続けるうちに、彼は人生とはこんなものだろうかと思い始めていた。

それが四五年も続いたのち転機が訪れた。父が死んだのだ。母は泣いていたがTは内心好機だと思っていた。今自分の前に二つの道がある。一つは父の辿った道で、もう一つは学びへと通ずる道だ。Tは定時制高校に通い始めた。

同輩に比べてTは一際歳上であったが、持ち前の明るさと剽軽な性格とですぐに溶け込んだ。教師の覚えも良かった。学問に王道なしとは云いながら、お前ならできる、頑張ればもっと上へ行けると励まされた事は間違いなく歩む道を広くしていた。そして二十四歳の春、地元下北沢の大学に合格する。

学資の為に男性向けのビデオに出演した事もあった。職業を聞かれ、ためらい無く「学生です」と答えた。働いている状態は彼にとって否応無く与えられた運命である。学生の肩書きこそ自分の力で勝ち取った無二の宝なのだ。

夜はソープ系風俗店でボーイとして働き、昼は学び舎とホモビ屋を往復する毎日だったが後ろめたさは微塵もない。人の生業を笑うな。与えられた運命を精一杯生きて何が悪い。真っ直ぐな澄んだ瞳はそう訴えていた。人間はまさに無限の可能性を持った獣であり、どんなものにでもなれるのだと、Tはまざまざと思い知らせてくれた。

 

野獣先輩苦学生説・完