言語依存指標

「洋ゲーやりたいけど英語わからん」という人に必要な語学力を伝える人向けガイド


「このゲームやりたいんだけどどれぐらい英語力あればいい?」という質問はたまに受ける。CivilizationでもEUでもFTLでもドイツ製ボードゲームでも何でもいいが、とにかく日本語化されていないゲームは地球上に大量にある。そこで既存のプレイヤーが必要語学水準を伝えようとするのだが、その際に適切な指標が無い事がしばしば問題になる。「簡単な英語が分かれば大丈夫だよ」「高校生ぐらいのテキストが読めればいいんじゃないかな」…簡単ってどの程度だ? どの高校のどのテキストの水準だ?

「簡単」とか「TOEIC何点程度の単語」といった基準は恣意的で曖昧ゆえ役に立たぬ。そこであるゲームがどの程度の言語依存性を持っているかを0〜5の数値で機械的に表す指標を考案した。英語に限らず「その言語をどれだけ読めれば良いか」を伝える為のツールとして活用されたし。

 

0:言語依存なし

そもそも言語記述が存在しなかったり、全く読めなくとも問題なく遊べるゲーム。例えば初代マリオは一切文字を読む必要が無い。「姫様はこの城にはいないのです」とキノコ太郎が訴えるのを完全に無視してもストーリーは平常運行する。ほとんどの格闘ゲームとか縦・横スクロールシューティングもここに入る。なおアラビア数字は便宜上「言語」に入れないので、数字だけを読むゲームもここに分類される。

 

1:単語のみ

“Fire” “Item” “Boss”といった単語を拾って意味を理解できればよいゲーム。例えばほぼストーリーの存在しないFPSでも武器の名前ぐらいは読めないと困る。グラフィックが荒すぎて緑色のアイテムが薬草なのかパセリなのか判然としない場合も文字の助けを借りる事になると思われる。またDiabloシリーズなどのRPGでも”Damage”や”Toughness”といったステータス画面の単語は分からないと完全にノーヒントで装備品を選ぶ羽目になる。

 

2:指示文まで

「石の平原へ行ってデッカード・ケインを探せ」とか「ソウルストーンを台座に置け」といったゲームからプレイヤーに与えられる指示を理解する必要のあるゲーム。近年のお使いクエストは親切なマーカーが表示されるのが普通だが、特定のアイテムを持っていく必要がある場合などは指示が読めないと詰まる。FPSでも「Eを押してアイテムを取れ」などのレクチャーは表示されるし、チュートリアルは往々にして「SHIFTを押しながら上の緑をクリックしろ」といった指示文を含む。

 

3:説明文まで

「穀物庫を建てると食料の半分が保持されます」「このスキルを使うと残りのマナに応じてダメージを与えます」といった説明文を理解する必要のあるゲーム。いわゆる思考系ゲームの大部分がここに入る。また装備品やスキルを吟味するタイプのRPGもここ。ボードゲームも大体はここ。ルールブックを読むのもほぼこの範疇。Civilizationを遊ぶには説明文の理解ができれば十分である。

 

4:叙述文まで

「惑星の地表に降り立つと奇妙な四本足の生物が佇んでいた。一見友好的に見えるがどうすべきか…」といった「何がどうしてこうなった」の文型を理解する必要のあるゲーム。中世君主なりきりゲームであるCK2はここまでの読解ができないと十全に楽しめない。また一見簡単そうなPapers, PleaseやFTLや洞窟物語も実はストーリーの読解がゲーム上必要になる局面があり、分類としてはここに入る。カーリーブレイスを処置して救出するのは実はかなり面倒くさい。

 

5:古文など

“Thou hast sworn to do thy Lord’s bidding in all. He covets a piece of land and orders the owner removed. Dost thou:” (汝は主君の命を全くすると誓えり。さて彼は一片の土地を不当に欲してその所有者を排さんとす。汝如何にせりや) これはウルティマ4の冒頭で浴びせられる質問である。Thou hastがYou haveの古形である事は当然知っていますよね? 古文、方言、その他非標準の文章がここに入る。

 

以上である。これで既に遊んだことのあるゲームの言語依存度を聞かれたら「単語が読めればいい」とか「指示文を理解する必要がある」などと明確に伝えられる。実際のところ、単語は辞書があれば簡単に調べられる。難しさを決めるのはむしろ文型である。

 

応用可能性

最後に、上記を踏まえて開発者向けに応用の可能性を提示する。例えば長々とした会話でお使いを依頼されたとしても、最後に1行だけ「薬草を隣町へ持っていけ」と違う文字色で書かれていれば言語依存度は4から2に下がる。これは外国人のみならず長い文章を読めない者にも助けになろう。言語的な難しさを決めるのは文章量とか単語の種類ではなく、「ゲームを進めるのに最低限必要な理解すべき文型」である。