翻訳記事:勝つ為に戦う(26)

これは翻訳記事です

 

上級プレイヤー向けガイド

大会

強くなりたいなら大会に出るべきだ。上達を測る最良の方法は、どれだけ勝てるかを調べる事だ。しかし正式な競技会以外での試合は思ったほど参考にならない。最も硬い鋼は最も熱い炎で鍛えられ、最強のプレイヤーは真剣勝負の中で作られる。カジュアルな試合は「楽しみ」の為だが、大会は血の汗を流す挑戦だ。

大会においては、普段よく戦う同じ相手ですら違うレベルになる。プレイヤーはしばしば最高の戦術、秘密兵器を公式大会の為に取っておく。大会では誰しも慎重になる。そして今まで対処できなかった戦術にいきなり解法を見つけたりもする。何故なら今それを見つけねばならないからだ。皆ゲーム内の生命に必死でしがみつき、あたかも地球の運命がそれに掛かっているかの如く決して諦めない。不利になるとすぐ降参するカジュアルプレイとは大違いだ。

かくの如く、「楽しみ」の為の戦いと勝つための戦いは目指すところが全く違う。エドワード・ラスカー(エマヌエル・ラスカーとはたまたま同姓)は著作”Chess for Fun and Chess for Blood”の後半導入部でこのことを述べている。

ここまでのページでは、チェスの楽しい側面だけを見てきた—アマチュア同士の、気軽な興奮の為のゲームだ。双方とも司令官になって駒を率いるが、勝っても負けても深刻な結果にはならない。

だがチェスにはもう一つの、大いに異なった側面がある—マスターとマスター志望者による大会や公式戦だ。その勝敗は地位を、時には生活をも左右する。

こうした試合は楽しいわけではない。勝者にとってすらそうだ。これらは想像しうる限りの難事業だ。命がけで試合に臨むのだ! 美しい手の誘惑があったとしても、それが勝てない試合を引き分けに持ち込む機会を潰してしまうなら避けねばならない。大会に勝つのは妙手の主ではなく勝ち点の多い者だ—勝てば1、引き分けなら半分、負けなら丸をひとつ描いておしまいだ。

 

大会を理解する

思い出すのは、最初の頃に参加したゲーム大会の事だ。自分で思っていたほど上手く戦えなかった。その時たまたま一緒に参加した友達というのが国内最高クラスのプレイヤーで、実を言うとジョン・チョイだ。ちなみに彼はその日優勝した。彼は「心配するな、君はまだ大会に不慣れなだけだよ」と言ってくれたがそうは思えなかった。「そうじゃない、今日のプレイは本当に駄目だったんだ」と私は言った。今になってみればチョイの方が正しかった事が分かる。

大会というのは、仕組みを知らない者にとっては奇獣の様なものだ。ゲーム自体のルールとは別に、大会を運営するための細かい規則や決まりごとがある。単純トーナメント形式か、それとも敗者復活があるか? あるいは総当たり戦か? スイスドローか? 過去の成績に基づいてシードされるか? シード権がある場合、最強のプレイヤーは緒戦で最弱のプレイヤーと当たる。おいおい何故だ? どうして新参者がいきなりチャンプと戦わなくてはいけないんだ、と文句の一つも言いたくなるだろうし、大会の方針そのものに異議を唱えたくなるかも知れない。だがシードというのはそもそも、最高のプレイヤー同士が早い段階で潰し合ってしまわない様に按配するものだ。こういった事に一々腹を立てているのはエネルギーの無駄だ。ベテランはみな当然の事として受け入れている。

大会には独自の文化と風習がある。先手後手がゲームに影響する場合、それをどうやって決めるのか? 格闘ゲームのキャラクターやウォーゲームの陣営をどう選ぶのか? あるいはチェスなら白か黒かどう選ぶ? そのゲームの達人であっても、大会の新参者はあたかも異国の地にやって来た様な感覚になる。他の参加者が話しかけてきたら、それは本当に友達になりたいからか? それとも脅威になるかどうか、どんな戦術を使うかを偵察に来たのか? もし大会の挙動について十全に理解していれば、こうした疑問に答えを出すのはずっと簡単だ。そうすれば猜疑にエネルギーを吸われずに済む。

大会の対戦形式も調べてみよう。試合は一本勝負かも知れないし、複数本先取かも知れない。トーナメント形式であれば最終的にどちらが試合に勝ったかだけが問題だ。一方、勝敗数が同じであればラウンド数で順位を決めるという形式も存在する。どういう形式かによって、考慮しなければいけない範囲が変わるのだ。試合の心理的な側面はどうか? 5本中3本取れば勝ちであれば、その5本は連続した流れとして感じられるだろう。そしてまた、一方のプレイヤーがもう一方を「解析」してどんどん有利になるという事もよく起きる。いつそれが起きるか注意していよう。自分が解析される側であれば戦い方を変えた方がいい。途中で使用キャラクターを変えることは大会のレギュレーションで許されているか? 格闘ゲームでは負けるとキャラクターを変更できる(少なくともアメリカでは。日本では不可能だ!)。RTSでは普通、1ゲームごとに双方が陣営を変更できる。M:tGではデッキの変更は不可能だが、あらかじめ用意しておいたサイドボードから1枚ずつカードを差し替える事ができる。変更するかしないか、正しく判断できる様になるには経験が必要だ。これらの要素は大会の独特なルールと結びついており、ゲームの達人でも大会の達人でない場合は失敗する事もある。

自分の強さを本当の意味で試すただ一つの方法は正式な試合である。ただ単に優れたプレイヤーであるだけではいけない。それは極めて主観的だ。優れた大会プレイヤーになり、成績を残さなくてはいけない。

 

大会に備える

大会の準備にどれだけかかるか、その答えは人によって異なる。門外漢には想像もできないほどの大事業になる場合もあるし、全く必要でないという事もある。大学時代、私は試験勉強を一生懸命する者ほど成績が悪い事を発見した。何故なら最終試験が数日後に迫っているのに今から詰め込まなくてはいけないとしたら、既に戦いに負けているからだ。どれほど頑張ったところで、半年も前からその分野を自然に理解して扱えるようになっている学生との競争には勝てないのだ。

ゲームでも状況は似たり寄ったりだ。付け焼き刃で前日に覚えた事は、長年かけて身につけた経験とは比べるべくもない。操作精度が必要なら、身体に深く覚えこませている方がずっと役に立つ。戦術が必要なら、時間をかけて色々な相手にそれを試し、自分自身の経験として身につけている方が遥かに良い。要するに、継続的な自己鍛錬の道に自分を置いているなら本番の準備はできているという事だ。

とは言え、来たる大会はゲームへの集中を新たにする手段でもある。上手くできない事が分かっているテクニックがいくつかあるとして、普段はそれをやらずに済ませているだろう。だが次の大会に真剣に取り組むなら問題を割り出して反復練習をしなくてはいけない。どれほど退屈で時間がかかろうとだ。また普段はゲームの裏通りを探検する習慣があるかも知れない。例えば格闘ゲームなら弱いキャラクターを試しに使ってみるとか、RTSなら「本気」陣営以外に「お遊び」陣営を使うとか、FPSなら役立たずの武器を使ってみるとか。そうやって変化をつけたり観戦者に面白いものを見せたりする。こうした習慣はゲームの理解を深めるのに役立つが、大会の本番ではそんな機会は無い。力を披露できるチャンスは限られている。1つも無駄にはできない。格闘ゲームであれば一番得意なキャラクターを使うべきだし、その為に練習しておく。RTSなら一番得意な陣営で最高のオーダーと戦術を使う。FPSなら最高の武器で最良のルートを走る。もちろん他の選択肢があるのは望ましいが、現実的になるのも大事だ。大会に向けた練習では「お遊び」は脇に置いて、勝つためにより重要な技術を磨かねばならない。格闘ゲームでひとつのキャラクターの操作技能を20点から75点に上げるのにかかる時間と、93点を93.5点に上げる時間は同じぐらいだろう。それでも自分の持ちキャラクターに全てを注がなくてはならない。それこそが大会の勝利をもたらしてくれるからだ。

大会準備のもう1つの側面はメタゲームの研究だ。つまりゲームが現状どんな風に遊ばれて、大会においてどんな戦術が使われるかを知ることだ。Warcraftで誰もがナイトエルフを使ってハントレスラッシュをかけている? ストリートファイターで皆が春麗を使っている? M:tGで皆が赤単スライを使っている? どんな相手にぶつかるか知らなければ大会で悲惨な事になる。メタゲームについてある程度知っていれば正しい準備ができる。特にM:tGでは参加者がそれぞれ自分のカスタムデッキを持って大会に臨むため、この点が極めて重要だ。もし他のプレイヤーが特定のデッキを使うことが分かっていれば、普通なら弱いが人気デッキに対しては強いデッキを作ることができる。流行を知り、大会によく出る様にしていれば、世間知らずのプレイヤーに対して優位に立てるだろう。

私自身の格闘ゲームでの経験から言えば、頂点付近の戦いでは「メタ」の意味が全く変わる。強豪たちはプレイヤー全体の流行を気にする必要は無い。中級以下の連中が何をして来ようと結局は叩き潰せるからだ。気にするのはほんの2〜3人、大会で自分を脅かす他の強豪がどんな技やトリックを使うかという「ミニ・メタゲーム」である。

どちらにせよ、敵を知るのも大会に備えるうちという事だ。自信満々の新参プレイヤーが大会で好成績を出すと豪語するのを何度も見て来たが、実際に結果を出せた試しは無い。少なくともすぐには。強さには大会のメタゲームに詳しい事も含まれる。何もない所で技術を磨いていきなり大会に行って勝つというのは非常に難しく、ゲームによっては全く不可能なのだ。

 

原文:http://www.sirlin.net/ptw