マクスウェルの銀の弾

iMperium 2がボツになった理由はエントロピーの法則で説明がつく。2は1の複雑なルールを整理し、より単純にしつつ面白さを保とうとした。そして後者の目標に失敗した。単純で底の浅い、頭を使わないゲームが出来上がってしまったのだ。

水と湯を混ぜてぬるま湯にするのは簡単だが、それを水と湯に分離しようとするとエネルギーが必要になる。変化は不可逆だ。同様に、単純なゲームにルールを付け足して複雑にするのは簡単だが、複雑なゲームを単純化するのは非常に骨が折れ、しばしばゲーム性を大きく損なう。

単純さは一種の位置エネルギーなのだ。物を上から下に移すのは簡単だが、下から上に移すのは力が要る。プロトタイプがnの複雑さを持っていたら、最終完成品の複雑さは>nである。

ゲーム開発はデザイン、実装、テストの繰り返し工程である。個々のループはデザイン空間の隣接する点への移動であり、それは往々にして複雑さの増加を伴う。ゆえに、探索できるデザイン空間の範囲はプロトタイプを起点とし、複雑さが増加する方向に向かって広がる円錐状の領域なのだ。

単純で、独創的で、楽しいプロトタイプ。そこから始める事ができれば労少なくして実り多し。優れたゲームデザインは広漠としたデザイン空間の中の小さな点であり、見つけ出すにはとにかく広い範囲を探すしか無い。