マクスウェルの銀の弾

iMperium 2がボツになった理由はエントロピーの法則で説明がつく。2は1の複雑なルールを整理し、より単純にしつつ面白さを保とうとした。そして後者の目標に失敗した。単純で底の浅い、頭を使わないゲームが出来上がってしまったのだ。

水と湯を混ぜてぬるま湯にするのは簡単だが、それを水と湯に分離しようとするとエネルギーが必要になる。変化は不可逆だ。同様に、単純なゲームにルールを付け足して複雑にするのは簡単だが、複雑なゲームを単純化するのは非常に骨が折れ、しばしばゲーム性を大きく損なう。

単純さは一種の位置エネルギーなのだ。物を上から下に移すのは簡単だが、下から上に移すのは力が要る。プロトタイプがnの複雑さを持っていたら、最終完成品の複雑さは>nである。

ゲーム開発はデザイン、実装、テストの繰り返し工程である。個々のループはデザイン空間の隣接する点への移動であり、それは往々にして複雑さの増加を伴う。ゆえに、探索できるデザイン空間の範囲はプロトタイプを起点とし、複雑さが増加する方向に向かって広がる円錐状の領域なのだ。

単純で、独創的で、楽しいプロトタイプ。そこから始める事ができれば労少なくして実り多し。優れたゲームデザインは広漠としたデザイン空間の中の小さな点であり、見つけ出すにはとにかく広い範囲を探すしか無い。

一番気に入ってるのは…

何です?

ゲームバランスだ。

 

murderInc氏の多大な協力もあってiMperiumは優れたゲームに仕上がった。ゲームバランスは良く、緊張感があり、良い技量を良い結果で報い、逆転の目は常にある。良作であると胸を張って言える。

だが課題もある。それはとにかく「分かりにくい」という事だ。どちらが勝っているか分かりにくい。初見の状態で何が強いのか分かりにくい。きちんと遊べば楽しくとも、遊べる様になるまでの敷居が高い。

なぜ分かりにくいか?それは勝利条件が複雑だからである。軍事勝利、政体勝利、得点勝利と3つの方法があり、それにどの程度近づいているのか一見して分からない。ここから全ての問題が発生している。つまり勝利への近さが分からないのでどちらが有利か分からない。勝利への道筋が見えにくいのでカードの価値も分かりにくい。遊ぶ前から遊び方が分かるという風になっていないのである。

今後の展望は、この部分を改善したiMperium 2を作成する事である。とにもかくにも、勝利条件を明瞭にせねばならない。そこで生まれるアイディアが、「場に10枚出したら勝ち」というルールである。陸軍や海軍の優勢も1枚のカードなので勝利に貢献する。自分の場に5×2枚ズラっと並べれば勝ち。相手が先に並べれば負け。これは分かりやすい。

場札の破壊もこのルールなら受け入れやすい。相手が10枚に達するのを阻止したいと思うのは当然であるし、また相手が阻止したがっている事も当然に感じ取れるからである。「何を何枚」という条件ではないので重要な場札を破壊されても勝利の目が消える訳ではない。

この様なルールでいずれiMperium 2を作成する。その時はぜひテストプレイに協力してくれ!

こんなのゲームじゃないわ!ただの数字の付いたカードよ!

だったら調整すればいいだろ!

iMperiumも最初から今の形だったわけではない。プロトタイプはかなりルールが違っていたのである。

 

・優勢は軍事力の合計が相手の2倍以上になると得られた

例えば軍団兵は陸軍力3、重装歩兵は2といった具合。場に出した陸/海軍カードの戦闘力をそれぞれ合計し、相手の2倍以上ならば優勢、半分以下なら劣勢、その中間なら均衡というルールだった。カエサルなどユニット破壊カードはあったものの、基本的に場札を破壊しないルールのため優勢が固定されやすいという問題が発覚。さらに戦闘力を合算する作業が面倒であった。軍隊同士を対消滅させるルールを導入してみるも優勢な側が更に有利になるばかり。結局「最後にタップした側が優勢を持つ」というルールに落ち着いた。

 

・陸軍優勢はダイス増加分を奪うのでなく共有した

当初は防壁というカードが無く、陸軍優勢を取られると畑の効果を相手に共有されるというルールだった。陸軍カードが引けなかった場合の救済措置に近い形で防壁を導入した所、今度は陸軍優勢を取る意味があまり無くなり、上方修正としてダイス増加分を「奪う」形になった。

 

・海軍優勢はドローが2枚だった

本来1枚しか引けない所をもう1枚!あまりにサービスが良すぎたため引き直しの権利に下方修正した。

 

・陸/海軍カウンターは無かった

優勢を取っても継続的な効果が得られるだけ。それでは少しパンチが弱いという事で、陸軍優勢を維持し続けると軍事勝利、海軍追撃を2回行うと手札を全て破壊というルールを導入した。陸軍カウンターが貯まっていくジリジリした緊張感はゲームに彩りを与えてくれたようである。

 

・パルテノンは偉人コストを-2した

コストを下げるというのは単に使えるエネルギーが増えるだけの話ではなく、低い目でも出せる様になる=出す機会が大幅に増えるという事である。それに気付いたのはペリクレスでパルテノンを完成させた後であった。

 

・遺産のコストは8+8だった

8コストを支払ってしまうと他の行動はほぼできない。遺産の為だけに2ターン拘束されるのは割に合わないという事で5+8に修正。

 

その他勝利条件や個別のカード性能、分布などあらゆる部分において調整を繰り返した。人が大人の姿で生まれて来ないのと同様、ゲームも最初から遊べる形では出て来ない。テストプレイを繰り返して育てねばならんのである。

金を使う権利

CivilizationとかSimCityとかカタンとかすとすてとか、村を築いていくタイプのゲームは究極的には「資源管理ゲーム」である。食料やら木材やらを採取し、それを使って何かを作り、作った物からまた何か利益を得る。その繰り返しである。

これはつまるところ複利システムである。金が利子を生み、利子がまた利子を生む。「溜め込むべき何か」は加速度的に増え続ける。

問題は、本当に複利の力でトークンが増え続けると管理不能になるという点だ。人口100人で始まった村が10ターンごとに2倍になり、300ターン目に1073億7418万2400人の銀河帝国になっていたらちょっと戸惑うのではなかろうか。

そういう訳でトークンの増加にはある種の限界が定められているのが普通である。例えばすとすては人口が増加すればするほど新たな人口のコストが増える。カタンは良い土地から順に開拓するので、開拓地を増やせば増やす程不毛な土地に踏み込まねばならなくなる。

そうした成長限界システムの一つとして、金を使う権利の制限がある。桃太郎電鉄ではいくら金を持っていても当地の駅に止まらなければ物件を購入できない。すとすてではいくら資材があっても建物カードが無ければ建設はできない。

「金を使う権利」というメカニクスはとても面白い。複利の力によるトークンの増加を採用しつつ、ゲームの規模をプレイヤーの管理できる範囲に留めておける。加速度の快感を副作用無しに組み込めるわけだ。

このメカニクスを軸にしてデザイン空間を探索しようという試みがiMperiumである。「カード」と「エネルギー」=カードを出す権利を分離し、エネルギーを複利の力で増加させる。プレイヤーはカードを出す事によって勝利に近づく。エネルギーの増加に伴いカードを出すテンポは速まっていく。「徐々に大きく・強く・速くなる」感覚は楽しいのである。

iMperiumではカードとエネルギーはある程度交換できる様になっている。カードを売却すれば1エネルギーになるし、キャラバンカードを使ってカードを引く事もできる。しかしその効率はあまり良くない。自在に交換可能であったらそれは1種の資源である。交換が制限されている事によって2種の資源となるのである。

そしてこういった、「交換不可能または困難な複数種の資源を管理する」事こそが資源管理ゲームの本質である。つまり金と金を使う権利の分離はこのジャンルの必然である。

#1 iMperium

タイトル:iMperium

1作目。作成時間3週間。

2人対戦のカードゲームである。文明を選び、軍や経済を整えて勝利を目指す。

カード一覧
ルール説明カード:

ルール:開始処理 (-) 1枚
・2人でプレイ。それぞれ既存のデッキから1つ選んで用いる。
・各々のデッキをシャッフルして山札にする。
・コイントスで先攻と後攻を決める。
・先攻は6枚、後攻は7枚自分の山から引いて手札にする。
・各々2枚裏向きで捨てる。双方が捨て終わったら表に返す。以後捨て札は公開される。
・初心者ルール:双方の手札を公開した状態でプレイしてもよい。

ルール:ターン処理 (-) 1枚
・山から1枚引く。
・ダイスを3個振る。目の大きい2つの合計がそのターンのエネルギーになる。
・山からもう1枚引いてもよい。その場合ただちにターンが終了する。
・エネルギーを消費して手札を出したり場のカードの効果を発動させる。エネルギーがある限り何枚でも可能。
・1ターンに1回まで「売却」をしてもよい。手札を1枚捨ててエネルギーを+1する。
・ターン終了を宣言する。余剰エネルギーは持ち越されず消滅する。
・注:アンタップのルールは無い。横向きにしたカードは場にある限りそのままである。

 

トークンカード:

陸軍優勢 (-) 1枚
ゲーム開始時点でどちらのプレイヤーもこれを所有しない。一方がこれを獲得するともう一方は失う。持っていると相手のダイス増加分を全て奪う。自ターン開始時に優勢を持っていれば陸軍カウンターを1個得る。陸軍カウンターが5個になるとゲームに勝利する。陸軍優勢を失うと陸軍カウンターを全て失う。

海軍優勢 (-) 1枚
ゲーム開始時点でどちらのプレイヤーもこれを所有しない。一方がこれを獲得するともう一方は失う。持っているとターン開始時のドローで1回だけ引き直しができる。その場合先に引いた札は捨て札にする。海軍カウンターが2個になると相手は手札を全て捨て、海軍カウンターを全て失う。海軍優勢を失うと海軍カウンターを全て失う。

 

ローマデッキ:

軍団兵/Legion (5) 5枚
陸軍
(T)(5)「陸軍攻撃」を発動
陸軍攻撃 – 陸軍優勢を得る。既に持っていれば陸軍追撃を発動。
陸軍追撃 – 陸軍カウンターを1個得る。相手の場に防御施設があれば1枚破壊し、無ければ陸軍カウンターをもう1個得る。

カタパルト/Catapult (6) 1枚
陸軍
(T)(6)「陸軍攻撃」を発動。相手に防御施設が無いものとしてプレイし、その後相手の防御施設を1枚破壊する。

近衛兵/Praetorian (7) 1枚
陸軍
場に出た時相手の場にあるコスト7以下のカードを1枚手札に戻す。
(T)(7)「陸軍攻撃」を発動。

畑/Farm (4) 8枚
農地
エネルギーロールの際にダイスを1個増やす。

穀物庫/Granary (5) 1枚
農地
エネルギーロールの際にダイスを1個増やす。
売却を実行する際、手札を捨てる代わりに場に出ているこれをタップしてもよい。

防壁/Walls (4) 3枚
防御施設
増加分のダイスを1個奪われなくする。

砦/Fort (5) 1枚
防御施設
増加分のダイスを1個奪われなくする。
優先して破壊される。
破壊されると手札に戻り、その後手札から1枚選んで捨てる。

キャラバン/Caravan (5) 4枚
商人
使い捨て(使うと場に出ずに捨て札置き場へ直行する)。
カードを2枚引く。

兵舎/Barracks (6) 1枚
商人
使い捨て
カードを2枚引く。
軍団兵カードを1枚回収。

ガレー/Galley (5) 4枚
海軍
(T)(5)「海軍攻撃」を発動
海軍攻撃 – 海軍優勢を得る。相手はそれを失う。既に持っていれば海軍追撃を発動。
海軍追撃 – 1枚「回収」する。海軍カウンターを1個得る。
回収 – 自分の捨て札から1枚選び手札に加える。

カラス/Corvus (6) 1枚
海軍
(T)(6)「海軍攻撃」を発動、1枚ドロー

共和制/Republic (11) 1枚
政体
ゲームに勝利する。ダイス増加カードが5枚以上場に無ければ出せない。

元首制/Principatus (11) 1枚
政体
ゲームに勝利する。陸軍カードが4枚以上場にあり、陸軍優勢を持っていなければ出せない。

カエサル/Caesar (12) 1枚
偉人
場に出た時相手の場にあるコスト7以下のカードを1枚手札に戻し、その後「陸軍攻撃」を発動。
1/4点:場に出ているカードの得点が合計1点以上になった時ゲームに勝利する。

キケロ/Cicero (12) 1枚
偉人
場に出た時1枚回収する。
[永続]ダイス+1。この増加分は奪われない。
1/4点:場に出ているカードの得点が合計1点以上になった時ゲームに勝利する。

ハドリアヌスの長城/Hadrian’s Wall (5) 1枚
遺産
二段階建設 – このカードは裏向きで場に出す。表に返すまで効果を持たない。
(8) このカードを表に返す
[永続]相手の陸軍タップコスト+2
1/4点:場に出ているカードの得点が合計1点以上になった時ゲームに勝利する。

トラヤヌスの円柱/Trajan’s Column (5) 1枚
遺産
二段階建設 – このカードは裏向きで場に出す。表に返すまで効果を持たない。
(8) このカードを表に返す
[永続]陸軍優勢を得た時に陸軍カウンター、海軍優勢を得た時に海軍カウンターを1個獲得する。
1/4点:場に出ているカードの得点が合計1点以上になった時ゲームに勝利する。

コロッセオ/The Colosseum (5) 1枚
遺産
二段階建設 – このカードは裏向きで場に出す。表に返すまで効果を持たない。
(8) このカードを表に返す
[永続]エネルギーロールの際に何度でも振り直してよい。振り直す度にダイスの数を1減らす。
1/4点:場に出ているカードの得点が合計1点以上になった時ゲームに勝利する。

ヤヌス神殿/The Temple of Janus (5) 1枚
遺産
二段階建設 – このカードは裏向きで場に出す。表に返すまで効果を持たない。
(8) このカードを表に返す
[永続]陸軍または海軍カードを場に出す度に1枚ドロー。
1/4点:場に出ているカードの得点が合計1点以上になった時ゲームに勝利する。

 

ギリシアデッキ:

重装歩兵/Hoplite (5) 5枚
陸軍
(T)(5)「陸軍攻撃」を発動。陸軍優勢を持っている場合発動コスト+1。
陸軍攻撃 – 陸軍優勢を得る。既に持っていれば陸軍追撃を発動。
陸軍追撃 – 陸軍カウンターを1個得る。相手の場に防御施設があれば1枚破壊し、無ければ陸軍カウンターをもう1個得る。

騎兵/Cavalry (6) 1枚
陸軍
(T)(6)「陸軍攻撃」を発動。1枚ドロー。

畑/Farm (4) 8枚
農地
エネルギーロールの際にダイスを1個増やす。

果樹園/Orchard (5) 1枚
農地
エネルギーロールの際にダイスを1個増やす。
(T)(5) 2枚ドロー

防壁/Walls (4) 3枚
防御施設
増加分のダイスを1個奪われなくする。

貿易船/Trader (5) 4枚
商人
使い捨て(使うと場に出ずに捨て札置き場へ直行する)。
カードを2枚引く。山札の一番上のカードを捨て札に移す。

港/Port (5) 1枚
商人
使い捨て
カードを2枚引く。捨て札から1枚選んで山の一番上に移す。

三段櫂船/Trireme (5) 4枚
海軍
自分のターン中、場に出ているこのカードを捨て札に移してもよい。
(T)(5)「海軍攻撃」を発動
海軍攻撃 – 海軍優勢を得る。相手はそれを失う。既に持っていれば海軍追撃を発動。
海軍追撃 – 1枚「回収」する。海軍カウンターを1個得る。
回収 – 自分の捨て札から1枚選び手札に加える。

重ガレー/Heavy Galley (6) 1枚
海軍
(T)(6)「海軍攻撃」を発動、その後相手の場にあるコスト7以下のカードを1枚手札に戻す

火炎いかだ/Fire Raft (4) 1枚
海軍
このカードはアンタップ状態で場に出ている時に相手の海軍攻撃を受けると手札に戻る。
(T)(4)「海軍攻撃」を発動

民主制/Democracy (11) 1枚
政体
ゲームに勝利する。海軍優勢かつ海軍カードが場に4枚以上無ければ出せない。

寡頭政/Oligarchy (11) 1枚
政体
ゲームに勝利する。海軍優勢かつ偉人カードが場に3枚以上無ければ出せない。

アレクサンドロス/Alexander (12) 1枚
偉人
陸軍攻撃を発動。その後手札から陸軍カードを1枚無償で場に出す。
1/6点:場に出ているカードの得点が合計1点以上になった時ゲームに勝利する。

アリストテレス/Aristotle (12) 1枚
偉人
カードを4枚引く。
1/6点:場に出ているカードの得点が合計1点以上になった時ゲームに勝利する。

アルキメデス/Archimedes (12) 1枚
偉人
海軍攻撃を発動。その後手札から海軍カードを1枚無償で場に出す。
1/6点:場に出ているカードの得点が合計1点以上になった時ゲームに勝利する。

ペリクレス/Pericles (12) 1枚
偉人
手札にある遺産を1枚無償で表向きにして場に出す。または場に出ている裏向きの遺産を表に返す。
1/6点:場に出ているカードの得点が合計1点以上になった時ゲームに勝利する。

ホメロス/Homeros (12) 1枚
偉人
1ターンの間陸海軍のコストとタップコストを0にする(3回まで)。
1/6点:場に出ているカードの得点が合計1点以上になった時ゲームに勝利する。

大灯台/The Great Lighthouse (5) 1枚
遺産
二段階建設 – このカードは裏向きで場に出す。表に返すまで効果を持たない。
(8) このカードを表に返す
[永続]エネルギードローの際に何度でも振り直してよい。その際コストとして手札を1枚捨てる。
1/6点:場に出ているカードの得点が合計1点以上になった時ゲームに勝利する。

巨神像/The Colossus (5) 1枚
遺産
二段階建設 – このカードは裏向きで場に出す。表に返すまで効果を持たない。
(8) このカードを表に返す
[永続]ダイス+1。奪われない。
1/6点:場に出ているカードの得点が合計1点以上になった時ゲームに勝利する。

パルテノン神殿/The Parthenon (5) 1枚
遺産
二段階建設 – このカードは裏向きで場に出す。表に返すまで効果を持たない。
(8) このカードを表に返す
[永続]偉人のコスト-1
1/6点:場に出ているカードの得点が合計1点以上になった時ゲームに勝利する。