翻訳記事:水はひび割れを見つける

これは翻訳記事です

GDC#17:水はひび割れを見つける

2011/6/12 Soren Johnson
Game Developer誌2011年3月号に掲載された物の再掲

 

「リスクを最小にせよ、どの選択肢が良いか考えろ。ゲームはそう教える。ゲームとはこういうものだ。言い換えれば、ゲームの終着点は退屈であり楽しみではない。我々は楽しいゲームを作ろうとしているが、それは人間の脳に対する勝ち目の無い戦いだ。楽しみとは過程であり、終着点はルーチンワークだからだ」

– ラフ・コスター著「おもしろい」のゲームデザイン―楽しいゲームを作る理論

多くのプレイヤーはゲームを最適解探しのパズルとして遊ぶ。どうすれば最小のリスクで最大の報酬が得られるのか? どんな戦略が勝利を確実にするのか? プレイヤーはゲームからできるだけ楽しみを絞り出そうとする。

しかしゲームというのは非常に複雑で、リリースしてみるまでプレイヤーがどう攻略するか分からない。何千ものプレイヤーがそれぞれに挑み、攻略情報をオンラインで共有するとなれば。開発者自身、リリースされるまで自分の作ったゲームを理解していなかったりする。

“Civilization”開発チームで使っていた言い回しが「水はひび割れを見つける」というものだ。つまりプレイヤーの利用できるゲームデザイン上の穴があった場合、それが発見されて悪用されるのは絶対に不可避である。最大の危険は、プレイヤーがひとたび利用できる穴を見つけてしまうと、最早それを使わずにプレイする事が不可能になってしまうという事だ。得た知識は忘れたり無視する事はできない。知らなかった方が良いと思っていてもだ。

“Civilization 3″から例を挙げよう。「伐採」、すなわち植林による無限ハンマーだ。森林を伐採すると近くの都市に10ハンマーが入る。ところが森林は必要な技術さえあればまた植えられるのだ。

この2つのルールが組み合わさると、労働者が領内の全てのタイルで延々植林と伐採を繰り返すという図式が生まれる。そうして無限にハンマーが供給される。しかしながら、このプロセスは退屈だし全く頭を使わない。効率プレイの結果楽しみが失われてしまうのである。

 

タンクメイジと無限都市

効率プレイの大きな危険は、単一の最適戦略がそれ以外の戦略を全て無価値にしてしまう事だ。MMOでは「タンクメイジ」という言い方でこの状況を言い表す。UOにおける重装甲・高火力の魔法使いビルドが由来だ。

このビルドは盾(タンク)としても活躍したし、ダメージ要員(メイジ)でもあった。ほとんどのキャラクタービルドはこれに取って代わられてしまった。そしてほぼ全てのMMOが一度はこのタンクメイジ現象を経験している。プレイヤーが全ての状況に対処できる効率的なビルドを追い求めた結果である。

Civにもタンクメイジがある。開拓者スパムによる無限都市(ICS)はシリーズの最初からずっとつきまとっている課題だ。根本的な問題は、規模2の都市が50個あると規模20の都市が5個あるより強力だという事だ。さまざまなボーナスが都市ごとに与えられるからである。例えば、全ての都市は都市タイルからの産出を無償で得ている。つまり規模2の都市は2人の市民で3つのタイルを活用できるが(1人あたり1.5)、規模20の都市は21タイルしか活用できない(1人あたり1.05)。

困った事に、ICSは最高難易度を簡単にクリアできる一方、100個の都市を管理するのは悪夢である。この戦略なりそのマイルド版なりを採用するとゲームそのものを破壊してしまう。しかしそれでもプレイヤーはこの戦略を止める事ができないのだ。

それまでのシリーズで得られた知識を武器に、我々Civ4チームはICSを早い段階で打ち破った。総都市数によってどんどん高くなる都市管理費の導入である。これであまりに早い段階であまりに多くの都市を作る戦略は経済を破綻させるようになり、やっとのことでICSは葬られた。

なぜタンクメイジやICSを葬らねばならないか。単一の最適解が存在すると、それ以外の選択肢が全て不正解になってしまい、ゲームから選択の幅を無くしてしまうからである。ゲームデザインの狙い目は、ある選択肢がある状況では正しく、他の状況では正しくないというバランスである。そしてその中間の状況はグレーゾーンが広がっている。全ての状況で正解になる戦略が生まれると、ゲームはそのダイナミクスを失うのだ。

 

時間の価値

プレイヤーに選択肢が与えられた場合、リスクに応じた報酬が用意されているのが普通である。ノーリスクローリターンのプレイスタイルがあると、プレイヤーがその戦略へと引かれて行くのは不可避である。

言い換えると、プレイヤーは安全の見返りに時間を犠牲にする。そして時間の価値を低く見積もり過ぎた結果、ゲームで遊ぶ楽しみそのものを浸食してしまう。古いゲームから例を挙げよう。”Morrowind”のスキルシステムは同じ行動を繰り返す事で報酬が得られた。何時間も壁に向かって走り続ければ運動スキルが上がり、ひたすら飛び跳ね続ければ軽業スキルが上がった。多くのプレイヤーは僅かな報酬のために何時間も退屈な作業をするという誘惑に逆らえなかった。

似た様な例がCivにもある。食料・ハンマー・ビーカーのあふれ問題である。都市は毎ターン食料・ハンマー・ビーカーを生み出し、ボックスを徐々に埋めて行く。ボックスが一杯になると新しい市民・建物・ユニット・技術などが得られる。

例えば文明が20ビーカーを毎ターン産出し、筆記の技術はコスト100だとしよう。この技術は5ターンで研究が終わる。ところが、もし21ビーカーを産出していたとすると、5ターン後にボックスには105ビーカーが溜まっている事になる。そしてその場合、筆記の研究が終わった所で余りの5ビーカーは捨てられてしまうのだ。次にアルファベットを研究したとすると、ボックスはまた空の状態で始まる。プレイヤーはこれに素早く気付き、技術研究が終わりそうになると科学税率を弄ってビーカーが無駄にならない様に調節した。そうするとそれだけ金銭収入が増えるのである。

同様の仕組みが食料とハンマーにも存在した。結果、プレイヤーは毎ターン全ての都市をチェックしてあふれが無駄にならない様に市民配置を調節する事を求められた。このマイクロマネジメントはなかなか面白いゲーム内ゲームだが、開発者はプレイヤーにこういう事で時間を潰して欲しいと思ったわけではないのだ。我々Civ4チームはあふれを次に持ち越すシステムを導入して問題を解決した。

この戦略を採用したプレイヤーは、このゲームを「マイクロマネジメントのせいで重い」と評する。最早都市から最後の一滴まで絞り出すという誘惑に抗えないからだ。マルチプレイでは状況は更に悪くなる。マイクロマネジメントをしないプレイヤーは成長や建設のレースに負けてどんどん遅れてしまうのだ。

開発者はこういう遊び方をして欲しくはなかった。しかしゲームのルールがそれを奨励しているのである。繰り返すが、開発者自身も自分のゲームをちゃんと理解していなかったりするのだ。プレイヤーが自分の時間の価値を低く見積もるのは困った事態である。最初は小さな報酬が嬉しいが、時間の消費によって単位時間あたりの楽しさが徐々に減少し、最後にはゲームそのものが退屈な挽き臼と化してしまう。

 

良い穴もある?

しかし全ての穴をゲームから取り除こうとするのはやり過ぎである。ゲーム自体の文脈に合わせて適切に判断しよう。その穴は他のプレイスタイル全てを無価値にしてしまうか? それとも単に楽しい、普通と違ったプレイを可能にしているだけか? 稼ぎプレイはゲームを終わりの無い作業に変えているか? それとも少し助けのいるプレイヤーに近道を与えているだけか?

「スーパーマリオブラザーズ」の無限1UPを思い出そう。階段でカメを蹴り続けて延々残機を増やす。これは実際バグではなく、開発者が故意に入れたゲーム要素である。ちょっとしたテクニックと引き換えに、ゲームの進行に必要な残機をお手軽に手に入れる事ができた。ゲームの穴を見つけて利用するのは楽しい経験だ。プレイヤーは他には無い様な、上達の感覚を得られる。その穴がゲーム自体なり対戦相手なりを粉砕してしまわない限りは。

可能であれば、穴を利用するかしないかオプションで選べる様にしておくとよい。プレイヤー自身に委ねるのである。例えばセーブ/ロード機能のあるゲームは良い目を引く為にリロードされる事が非常に多い。箱を破壊するとランダムな戦利品が出て来るRPGの場合、最高の武器なり鎧なりが出るまで何度もリロードする事になる。

Civ3では乱数の種をセーブファイルに保存して、何度リロードしても戦闘の結果が同じになる様にした。悪い戦闘結果が出る度にリロードして時間を無駄にするという事は無くなり、ゲームのテンポが良くなった。

しかしファンコミュニティの反応は我々の期待とは違っていた。リロードを奨励されなくなった事を評価するプレイヤーもいたが、大部分は今まで使えたトリックが封じられた事に腹を立てていた。実際、何度繰り返しても同じ結果になるのを見て、ゲームがインチキをしていると怒るプレイヤーすらいた!

我々はこの仕組みを使うか使わないかゲーム開始時のオプションで選べる様にした。リロードを繰り返して薄い目を取りたいプレイヤーは自由にそうすればいい。しかしデフォルトでは、ゲームはそうした作業を奨励しない。結局の所、プレイヤーがどんな体験をするかプレイヤー自身に選ばせれば間違いは無いのだ。

原文:http://www.designer-notes.com/?p=369