ルールデザインの話(1)

ゲームのルールを作る際のあれこれ


ボードゲームのルール作りについて1冊本を書こう! と半年前に思い立ったものの着地点が定まらず一向に原稿が進む気配が無い。仕方ないので一旦本は諦めてブログ記事として散発的に発信し、反響があったら内容を拡充してまとめるという方針に切り替えた。第何回まで続くか全く不明だが気楽に読んで頂きたい。

 

ルールは最初に作る

最初の話題は「ゲームはどういう順番で作るか」という問題である。1つのゲームはルールやアートワークや図案や説明書や駒や箱やその他色々なエレメントが合わさって出来ている。どこから手をつけるべきだろうか?

ルールである。これは「場合による」とか「大抵の環境では」といった但し書き無しに、常にルールを最初に作るのが望ましい。理由は主に2つある。歩留まりと他工程への影響である。

第一に、ルールデザインは工程として見ると歩留まりが物凄く悪い。10個ぐらい遊べるゲームルールを作ると、「これは面白い!」というのが1つか2つ、「まあ悪くはないんじゃないかな」というのが3つか4つ、残りがカスである。これは他の工程に置き換えてみるととんでもなく高い不良品率だ。ゲーム用画像を依頼したアーティストが箸にも棒にも引っかからん落書きを10枚中5枚並べ、「何か問題でも?」という顔をしたら0.2秒後には右ストレートが鼻の頭に突き刺さっている。説明書の半分のページで日本語が破綻していたらライターは紆余曲折の末病院に送られる。10回試みて7回失敗したら「3回も成功してすごいな!」と褒められるのはルールデザイナーと野球の打者ぐらいのものだ。

第二に、ルールは他の部分への影響が大きい。ゲームというのはルールを中心に回っている物なので、何か変更を加えると他工程もそれに合わせる必要が出てくる。例えばモンスターを戦わせるゲームで、全てのモンスターを「機械系」と「八本足の軟体動物系」の2系統に分けたとしよう。機械系は電撃に弱く、八本足の軟体動物系はタコツボを見ると入ってしまうという具合にそれぞれルール上の挙動を定める。数十のモンスターを作り、アーティストがそれらのアートワークを制作した。ところがその後になって八本足の軟体動物系モンスター「明石丸」を機械系に変更したとすると、幸運にもタコにも機械にも見える宇宙的なデザインをしていない限りその絵は描き直しになる。

こういうわけで、他の仕事をしてからルールを変更すると二度手間三度手間が発生するし、他の部分を全て完成させた後でルールを作ってみたらあまり面白くなかったという場合「これまでの全ての労力を無駄にする」か「これまでの全ての労力に加えて生産コストを無駄にする」かという選択を迫られる。ほとんど疫病神だ。

従って理想的な工程順序は、まず遊べる形のルールを作り、面白ければ他の工程を始め、面白くなければ何も見なかった事にしてプロジェクトを打ち切るというものだ。これならたとえ失敗しても無駄骨を折るのはルールデザイナーだけで済む。というよりそもそも、面白いルールが出来上がった時点を以てプロジェクトの第一日とすべきである。その前の段階でアーティストに「俺さ、今すげえゲーム作ってるんだけど絵描いてみてくんない?」などと相談すべきではないのだ。

なお企画書は助けにならない。ストーリーを読む類の広義のゲームはともかく、ルールから面白さが生まれるゲームはまずプロトタイプが必要だ。企画や構想の段階では曖昧な部分が全て想像で補われているため非現実的に美しく見える。このあたりの仕組みは「構想の呪い」という記事で解説している。

 

ルールデザインの話(2)