汚い大人の遊び

“Gift”の底本はマルセル・モースの「贈与論」である。贈与は交換の遥か以前から存在し、人類の文化に深く根付いている。何かを贈ったり贈られたりする事は霊的な行為であり、「贈与の霊」がそれに伴って動いて行くのだ。

市場経済は対等な取引主体同士の「交換」を前提とするが、それは人類の性質のほんの一部に過ぎない。贈与はもっと偉大なのだ。親から子へ、師から生徒へ、前の世代から後の世代へ。上流から受け取り下流に渡す。それが人の営みである。

子供達にその事を伝えたい。この世に取引主体としてでなく、まず贈与主体として入って来て欲しい。学習は苦痛と知識の交換ではなく、前の世代からの贈り物だ。労働は時間と金の交換ではなく、君の能力を必要とする人への贈与だ。贈られる事と贈る事を通じてのみ人は命を繋いで行ける。今ある体は誰から貰った物か。

この様な思想に基づいて作られたのが”Gift”である。自分の持ち物を必要とする人に贈る事で得点を稼ぐ。この得点コインは精神的豊かさを表している。何かを贈る事で人は豊かになれるのだ。その事を伝える「贈り物」としてこのゲームを作った。

 

 

 

 

・・・が。汚いコアゲーマーどもは案の定他人の足を引っ張る事に熱中した。「いかに贈与するか」でなく「いかに贈与させないか」のゲームとして遊び始めたのである。他のプレイヤーが2枚持っている札を贈与すると、相手はそれを副露しなくてはならない。副露した札は贈与の材料としては使えない。このため2枚ある所への贈与は「刺す」「潰す」といった動詞が用いられ、贈与の集中砲火を受けたプレイヤーは悲鳴を上げる。世はまさに世紀末であった。

#3 Gift

タイトル:Gift

3作目。ここまでの作業時間:3日

5人で遊ぶ子供向けゲーム。同じ種類のカードを揃えて得点を増やすハンドメイキング。他の人にカードを贈与して得点を増やしてあげると、自分は増加分の2倍の得点コインが貰える。

 

カード内容:赤・白・黒・青・緑・黄・紫のカード各6枚

 

・全員に5枚ずつ札を配る。

・手札は公開。枚数に上限無し。小さい数字から順に左から並べ、同じ数字は縦に並べる。

・反時計回りに順番が巡る。

・順番が来たら山から1枚引いて、1枚誰かに贈る。贈る札は相手が既に1枚以上持っていなくてはならない。ただし一番手の最初の順番では山から札を引かない。

・同じ色が3枚揃ったら副露して手札から外す。これはどのタイミングでも即座に行われる。

・贈与によって相手が副露すると贈与コインを1枚得る。

・贈与できる場合は必ずしなくてはならない。贈与できない場合はそのまま何もしない。

・副露1つにつき1点、贈与コイン1枚につき2点。最初に7点に達したら勝利。

・贈与によって2人のプレイヤーが同時に7点以上になった場合は合同勝利。

・誰かを勝たせるしか行動選択肢が無く、かつ誰を勝たせるか選べる場合、次の順番が一番早く回って来るプレイヤーを勝たせる。

・山札を引き切ってから順番を終えた時、誰も7点に達していなければ全員の負け。相互に汚い大人と罵り合う。